第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
オトヒメが祖母に、さらに祖母はその母から。
言われてみれば、あの子守歌はずっとずっと昔から、母から子に受け継がれてきた。
でも…。
「わたくしは…、あの歌を正しく唄えません…。」
早すぎる死を遂げたオトヒメは、しらほしに伝えるべきものを伝えられずにこの世を去ってしまった。
だからしらほしは、幼い頃の記憶でしか歌を覚えていない。
「正しくなくたって、気持ちがこもっていれば陽樹 イブには届くはずよ。」
セイレーンの歌が、特に歌詞や音程は関係なく その効力を発揮するように、歌で大事なのは気持ちだと思うのだ。
「けど、先ほどここで歌を唄いましたが、陽樹 イブはなんの反応もしませんでしたわ。」
モモがローへの想いを語り涙した時、彼女の涙が止まればいいと歌を唄った。
でも、陽樹 イブは輝きを取り戻さなかったじゃないか。
「…ううん、そんなことないわ。」
思い出したのだ。
あの時、モモが感じた光のことを。
目を閉じていても、瞼の下で確かに光を感じた。
あれは、陽樹 イブが僅かに反応した光だったのではないか。
「もう一度唄ってみようよ、気持ちをこめればちゃんと届くはずだわ。」
「でも…。」
正直、自信がない。
それは自分が音痴だからとか そういう理由ではなく、ただ単純に世界の美しさを、人間の愛おしさを伝える自信がないのだ。
だって、しらほしは誰かに伝えられるほど、世界を知らない。
ついこの間まで、狭い部屋の中だけが、しらほしの世界だったのだ。
そしてしらほしは恋を知らない。
過去の人魚姫が誰かを愛し、恋する気持ちを自分がマネできると思えなかった。
「わたくしには無理です。恋すらしたことのないわたくしが、陽樹 イブになにを伝えられましょう…。」
自分の不甲斐なさにうるうると瞳が潤む。
ルフィ様…、やはりわたくしは弱虫も泣き虫も、卒業できないままなのですね。
しらほしのことを“それほど弱虫じゃない”と言ってくれた彼に、申し訳なかった。