第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「天竜…人…。」
その言葉を聞いたのは、久しぶりだ。
地上に住む、神の血を引くと言われる一族。
しらほしは幼い頃に一度だけ、天竜人を見たことがある。
あれはまだ、母 オトヒメが生きていた時のこと。
無謀にも魚人を捕らえに魚人島へやってきた天竜人は、航海の厳しさから命からがらの状態だった。
彼らに恨みを持つ者は多く、ズタボロの天竜人を誰も助けることはなく、むしろ民たちは武器を手にした。
『殺せ、殺せ…ッ!』
いつもは穏やかな街の人々が、まるで鬼の形相で口々に叫ぶ。
あの時、しらほしは地上から来た天竜人より、顔見知りであるはずのみんなこそが怖いと思ってしまった。
しかし、オトヒメはそんな民たちを諫め、天竜人と共に世界会議出席権を手にするため、なんと地上へと旅立ったのだ。
その後、オトヒメが本当に世界会議出席権を勝ち取ってきたというのは、リュウグウ王国の民ならば誰もが知る事実。
「天竜人とは、そんなにも恐ろしい方たちなのですか?」
少なくともあの時は、彼らが戦争に匹敵するほどの存在だとは思わなかった。
「わたしは…、あの人たちほど最低な人間はいないと思うわ。」
同じ人間を売り買いし、奴隷として…いやモノとして扱う。
己を神と信じて欲望のままに行動する様は、獣よりもひどい。
もし、モモが世界を見下ろす陽樹 イブならば、こんな世界は見たくないと顔を背けてしまうだろう。
もちろん、世界には美しいものがもっとたくさんがある。
けれど、目の前にある人間の醜悪さを見てしまえば、せっかくの美しいものも見えなくなってしまうに違いない。
でも、モモはそんな彼らに捕らわれたからこそ、気づけたものがあった。
それは自分の幸せだったり、本当の気持ちだったり。
だから、陽樹 イブにも思い出してもらいたい。
昔、人魚姫が伝えた愛しさを。