第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
人魚姫の歌を聞いて、陽樹 イブは自分の心が浮上してくるのを感じていた。
彼女の歌から、愛しさや恋しさが伝わってくる。
ああ、きっと彼女は恋をしているのだ。
ふと、そんなふうに思った。
人間たちは恋というものをして、互いを分かち合ってからつがいを作る面倒な生き物。
自分には“恋”とはなんなのかよくわからないけど、この歌を聞いて少しだけ、ほんの少しだけわかったような気がする。
人魚姫の言う『大切な人たち』の中には、きっと彼女の想い人も含まれているのだろう。
恋なんかしなくても、繁殖することは簡単だ。
けれど、彼らは愚かにも恋をする。
(ああ、そうか。…忘れていたよ。)
人間とは、同種で争い傷つけ合うほど愚かで、何度でも恋をして、想い合い寄り添い合う愛しい生き物なのだ。
その人間たちを、もう少しだけ見守りたいと思った。
心に温かみが戻るにつれて、陽樹 イブの根はだんだんと輝き始めた。
『ああ、陽樹 イブ。わたくしの想いをわかってくださったのですね…ッ、ありがとうございます!』
感激に瞳を潤ませる人魚姫は、何度も何度も礼を言う。
けれど、礼を言いたいのはこちらの方だ。
彼女は自分に、愛しさというものを思い出させてくれた。
もしできることなら、今聞いた“歌”を彼女が死んでしまった後も、誰かの記憶に残しておいて欲しい。
だって、人間の寿命は短い。
けれど歌さえ残っていれば、彼女のことを、人間の愛しさを、いつでも思い出すことができるから。
自分がいつか、そのことを忘れてしまっても…。
『お約束しますわ、わたくしたちの子孫に歌を引き継いでいくことを。』
彼女の答えに満足した陽樹 イブは、再び意識を地上へと戻す。
さあ、もう少しだけ、彼らと共に生きてみようか。