第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
『どうしたら願いを叶えてくださいますか。わたくしの命を引き換えにしても構いません…!』
切羽詰まった人魚姫に、陽樹 イブは内心焦る。
そんなものはいらない。
でも、沈みきった心をどうすればいいのか自分でもわからなかったから。
(ならば、お前の気持ちを、もっと私に教えておくれ。)
彼女がなぜ、他人のために命を差し出せるのか。
彼女がなぜ、そうまでして誰かを大切に想えるのか。
自分が知らない感情を教えてくれるのなら、もしかしたらなにか変われるかもしれない。
『わたくしの想いを…、伝える方法があるのなら。』
陽樹 イブの問いかけが伝わったのか、それまで跪いていた人魚姫が立ち上がった。
『わたくしは、非力です。あなたに伝える方法は、これしか知らないのです…。』
そう言って彼女は大きく息を吸い込んだ。
なんだ、これは…。
それは陽樹 イブが初めて耳にするものだった。
(人間というのは、こんなことができるのか?)
波のさざめきでもない。
風の囁きでもない。
不思議な“音”だった。
その音はびっくりするぐらい、心に染み渡る。
彼女の想いが直に伝わってくるようだ。
(この音は、なんというものだ。)
地上にいる人間たちは、雄叫びや悲鳴を上げるばかりで、こんな音を奏でたりしない。
何千年生きてきた中で、久しぶりの“初めて”に心が躍る。
しばらくして、音を鳴り止ませた人魚姫がポツリと呟いた。
『…わたくしには、こんな歌しか唄うことはできません。』
(歌…?)
今のは歌というのか。
素晴らしいものだった、もう一度聞きたい。
アンコールを求めて、根っこを淡く光らせた。
『…! 今、少し光ましたわ! 陽樹 イブ、わたくしの気持ちをわかってくださったのですか?』
わかったかどうかは、わからない。
でも、お前の歌をもう一度聞きたいのだ。
『もう一度、歌います…!』
人魚姫は再び大きく息を吸い、先ほどよりしっかりと唄い始めた。