第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
『……。』
陽樹 イブが浅い眠りについたとき、誰かの声が聞こえた。
誰だろう。
ずっと下の方からだ。
眠りかけた意識を浮上させ、普段見ている場所よりずっと地下へ移動してみた。
そう、それは深海10000メートルのとある国。
大地に根付く箇所。
海底に意識を移動したのは、ずいぶん久しぶりだ。
自分を呼ぶ方へ行ってみると、ひとりの人魚が座り込んでいた。
彼女のことは知っている。
人魚として生まれながら、その身に海王類を従える力を持つ少女。
古代兵器“ポセイドン”の人魚姫だ。
『お願いします、陽樹 イブ。どうか、わたくしたちに太陽の光をお届けください。』
彼女は手を組み合わせ、祈るように自分へ願った。
そういえば、地下へ流す太陽光を頼りに、魚人たちが国を造ったことを今になって思い出す。
太陽光が途絶えれば、彼らにとって大きな損害だろう。
だけど、陽樹 イブはそれがわかっていても、再び心を開く気にはなれなかった。
なぜなら、人間はひどく愚かしいから。
恐らく自分が心を閉ざしても、争いは止まない。
同種のくせに、今もどこかで互いを傷つけ合っている。
(それはお前が1番よく知っているだろう、古代兵器の娘よ。)
兵器として利用されるより、国など捨てて海王類と共に暮らした方が、彼女にとって幸せではないのか?
陽樹 イブには、人魚姫の願いがわからなかった。
『太陽の光がなければ、わたくしたちは生活することができません。どうかどうか…。』
ポロリと人魚姫から涙が落ちる。
なにがそんなに悲しいのだろう。
彼らには立派な足があるのだから、いくらでも自由に旅立てるはず。
『ここには、わたくしの大切な人がたくさんおります。わたくしは、明日も明後日も、その先もずっと…みんなで笑い合いたいのです。』
大切な人…。
ひとりで長い時間を生きる陽樹 イブには、その感覚はわからない。
でも目の前の彼女は、兵器に利用されても、どこへでも行ける足があっても、大切な人と共にこの場所で生きていきたいと願う。
それは、どんな気持ちなのだろう。
その気持ちを知ってみたいと思った。