第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
イチョウやヤナギのように、植物には雌雄の性別をもつものがある。
世界樹もまた、雌雄異株の植物だった。
かつて海賊王・ゴールドロジャーの船を造ったといわれる、世界に名高い宝樹 アダムが男性なら、陽樹 イブは雌雄をわけると女性であった。
そして女性樹というのは、人間と同じように感性がとても繊細だ。
こうして人々の諍いに心を痛めてしまうくらい。
なぜ、人間たちは争いを続けるのだろうか。
長年答えを探し続けた陽樹 イブは、とある結論にいたった。
“私がいるからだ。”
人々は勝手に自分を神の樹と崇め、麓の島を奪い合う。
その結果、戦争でたくさんの人間が死に、ヤルキマン・マングローブも焼かれた。
こんなことになるくらいなら、いっそ消えてしまいたい。
けれど、自分がいなくなるのは無理だ。
自分の身体は、他の動物や植物にとってなくてはならないものだから。
結局、答えなんて出せず、ただ見守ることしかできない。
この愚かしい世界を。
(ああ、そうだ。見たくないなら、見なければいい。)
いつしかそんな考えをするようになり、陽樹 イブは心を閉ざした。
するとどうだろう。
閉ざしたのは心だけのはずなのに、陽樹 イブの中でとあるものも閉ざされた。
それは、太陽の光。
陽樹 イブの特性は太陽光を吸収し、それを地下深くまで続く根っこに酸素と一緒に供給すること。
自分でも理由はわからない。
けれど、なぜか陽樹 イブが心を閉ざした瞬間、眩い輝きを放つ太陽の光も身体に入らなくなった。
(まあ、いいか。私が光を巡らさなくても、太陽はずっと輝いているのだから。)
こうしていれば、人間たちを見なくてすむから。
人間の愚かさも、目を閉じていれば見えることはない。
そうだ、しばらく眠りにでもつこうかな…。
陽樹 イブは、意識を眠らせることにした。