第8章 嫉妬
(なんか、申し訳なかったなぁ…。)
ズッシリ重たくなったバスケットを持ち、モモは船へと戻ることにした。
気がつけば時刻はお昼を回っており、大通りはたくさんの人で賑わっていた。
ふと通りがかった装飾品屋に目がいく。
桜貝の可愛らしいイヤリング。
大粒なパールのネックレス。
色とりどりの宝石たち。
自分には一生縁のない代物だ。
でも、なんとなく目を引いてしまうのは、やっぱり年頃の少女だからか。
カランカラン。
「毎度ありがとうございます!」
店員の深々としたお辞儀と共に、美しい女性が中から出てきた。
「…あ。」
「あら、あなた…。」
メルディアだった。
「こんにちは。」
モモはニコリと挨拶する。
「奇遇ね、あなたもお買い物?」
「はい、もう済みましたけど。」
「あらそう。なにを買ったの?」
メルディアが近づいて来る。
ふわりと薔薇の香りがした。
やはり、昨夜と同じ香り。
考えまい、と思考を止めてバスケットを開く。
「薬草です。この街は品揃えが良くていいですね。」
メルディアは買い物の中身に少々驚いたようだ。
「…これだけなの?」
「はい。けっこう量はあると思いますよ?」
「そうじゃないわよ、服とかアクセサリーは買わないの?」
モモはパチクリと瞬いた。
服はたくさん持ってるし、アクセサリーは必要ない。
「買わないです…。」
「なぜ? この街の宝石は質がいいって有名よ?」
「そうなんですか。でも、もうお金ないですし…。」
たった今、全財産を使い果たしたばっかりだ。
「そんなの、ローに出させればいいじゃない。」
「なぜです?」
「なぜって…、男が女に貢ぐのは当然でしょう。」
それはメルディアくらい、素敵な女性ならそうだろう。
だけど、自分をそのレベルと一緒にされても困る。
「ふふッ、メルディアさん、おもしろい。わたしが誰かにプレゼントを貰えるわけないじゃないですか。」
自分が地味で目立たない女なのはわかってる。
メルディアは驚愕に目を見開いた。
「今まで、一度も?」
「ないですよ。」
「…ローからも?」
「ないですってば。」
そんな何度も聞かなくても…。