第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「…本当に気をつけてね!」
身体をシャボンで包み、潜水準備を整えたローとコハクをモモは心配そうに見送る。
「うん、オレたちが原因を見つけてくるから、安心しろよ。ヒスイ、母さんを頼んだぞ!」
「きゅきゅッ」
ここにいれば危険なことはないとは思うが、念のためヒスイを護衛として残していく。
「それじゃ、行こうか。」
ランタンを持ったデンが先に海へ飛び込み、2人を先行する。
「じゃ、行ってくるよ。」
続いてコハクも飛び込んだ。
闇の中に飛び込むようなものなのに、一切の躊躇がない。
こういう度胸があるところは、本当にローに似ている。
その後を追って、ローも海へと近づいた。
「…ロー!」
早く行かなくてはいけないのに、その背を思わず呼び止めてしまう。
「なんだ。」
「え、えっと…。」
立ち止まり振り向いてくれたけど、そんなローになんて声をかけていいか、わからなくなった。
気をつけてね。
コハクをよろしくね。
原因を見つけてきてね。
言いたいことはたくさんあったはずなのに…。
「……ッ」
どの言葉も喉から出てこなくて、無駄に彼を引き止めてしまう。
どうしよう、なにか言わないと…。
そう思った時、ローがこちらへ近寄り、モモの頭に手を伸ばした。
またぐしゃぐしゃに撫でられるのか?
先ほどの行為を思い出し、髪が乱れるのを覚悟した。
ふわ…。
しかし、モモの想像とは異なり、ローは壊れ物に触れるかのように優しい手つきで髪をひと撫でしただけだった。
「…心配すんな。」
ただそれだけ言って、クルリと踵を返してしまう。
「あ…ッ、む、無茶しないでね…!」
とっさに声をかけると、顔だけ振り向いたローは呆れたようにフッと笑った。
「誰に言ってやがる」
その優しい笑みが、モモの胸をぎゅうッと締め付けた。
ああ、どうしてだろう。
どうしてこんなに離れがたく思ってしまうのかな。
昔はただ、あなたが海で生きてさえいてくれれば、それで良かったのに。
「…いってらっしゃい。」
寂しい顔を見せないよう、必死に笑顔を作った。
ちゃんと上手く、笑えているかな?
「ああ。」
モモの笑顔を受け、ローはコハクとデンの待つ、暗い海へと旅立って行った。