第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「当然、オレも行くからな!」
それまで傍観していたコハクがローのもとへ駆け寄り、当たり前のように裾を掴んだ。
これにはモモだけでなく、ローも驚く。
「なに言ってるの、ダメに決まってるじゃない!」
コハクみたいな子供が暗い海の中を泳ぐなど、危険すぎる。
「大丈夫だよ、オレ泳ぎは得意だし。」
モモの心配などよそに、コハクはバブリーサンゴを手で弄ぶ。
「ざけんな、ガキなんか連れて行けるか。お前もここで待ってろ。」
ローも冷たく突き放すが、コハクはモモと違ってそんなことで傷ついたりしない。
「だってロー、植物のことに詳しくないだろ。デンと一緒に行ったって、原因なんか見つけられっこないじゃん。」
「……。」
痛いところを突かれた。
ローは博識な方ではあるけど、あくまで外科医だ。
草木のことは正直わからない。
「少なくてもオレは、ローより詳しいよ。」
無人島シルフガーデンではモモと一緒に薬草を育てていたし、森の中はコハクの庭のようなものだった。
コハクの夢は医者だけど、その生活の中で植物の知識がつくことは自然なことだろう。
「いいんじゃないか、連れて行っても。」
モモがコハクをどう留めようかと悩んでいた時、横からまさかの言葉が降ってきた。
「デンさん…!」
せっかく止めようとしているのに、なんてことを言うのだ。
「コハク君がいてくれた方が助かるよ。大人の目だけじゃ、わからないこともたくさんあるしね。」
「でも…。」
こんな暗い海の中、なにかあったらどうしよう。
カナヅチのローのことだって心配なのに。
「大丈夫、なにかあってもコハク君くらい、僕が抱えて泳げるよ。」
コハクを宥めるつもりが、逆に自分が宥められ、どうしたらいいのか迷う。
「母さん、心配しすぎだよ。いつもオレのことは心配性だって言うくせに、人のこと言えないじゃん。」
「う…。」
それを言われると辛い。
でも、親が子を心配するのは当たり前だと思う。
「ハァ…。もういい、わかった。くれぐれも傍を離れんじゃねェぞ。」
このままでは埒があかないので、ローが許すという形で場を納めるしかなかった。