第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「ちょっと待ってよ、わたしも行くわ!」
ローは噛みつく勢いで猛抗議してくるモモを見下ろし、本気でバカなんじゃないかと呆れた。
さっきの今でよくそんなことが言える。
メガロの背から転げ落ちたことを忘れたのだろうか。
あの時、モモはローの心臓がどれだけ跳ねたことか知らないのだ。
なんでもないように助けてみせたけど、本当は背筋に汗がつたった。
敵の奇襲を受けてもこんなに焦ることなどなかったのに、彼女だけがローをこんな気持ちにさせる。
たかだかサメの背から降りるだけでもあの調子なのに、シャボンひとつでしか身を守るものがない状態で、彼女を海に潜らせるなどとてもできない。
本当なら、安全な船の上にでも閉じ込めておきたいくらいだ。
先ほどはローが助けてあげられたけど、自分は悪魔の実の能力者。
海の中では、どうなるかわからないのだ。
そんな状態で彼女を海へと連れて行けるわけがない。
「ダメだ、自分の身を自分で守れないようやヤツがなに言ってやがる。」
「……!」
さすがに思い当たる節がいくつもあるのだろう。
グッと押し黙った。
けれど…。
傷ついた顔をしている。
己の弱さはモモにとって一番痛いことだと理解している。
そしてこんな言い方をすれば、彼女が傷ついてしまうこともローにはわかっていた。
だけど、モモを傷つけてでも言わなくちゃいけない。
それで彼女を危険から遠ざけられるなら、その方がずっとマシなのだ。
「わかった…わ。」
素直に引き下がったモモは、なにかを堪えるような表情をした。
キュッと唇を噛み締める様子が、いかにも悔しそうだ。
ああ、そんなに唇を噛み締めたら、切れてしまう。
でも、その唇に触れる資格を、今のローは持ち合わせていない。
代わりに手を頭の上にポンと置き、ぐりぐりと雑に撫でまわした。
「…俺が行ってやる。だから、そんな顔すんじゃねェ。」
「え…。」
自分がモモのためにできることは、それくらいだから。