第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
魚人島の深海層は、陸地もある居住エリアよりもさらに街灯が少なく、なんだか薄気味悪い雰囲気が漂っている。
ランタンの中にモモが持っていたランプ草を入れ、行く先を照らすだけの光を保つのが精一杯だ。
「ここが深海層…。わたくし、来るのは初めてです。」
怯え半分、興味半分でしらほしが言うと、デンは「それが普通です」と答える。
「ここいらは治安が良くないですから、姫様でなくても、一般の国民は近寄りたがらないんですよ。」
数ヶ月前、この一帯を仕切っていたのはホーディ・ジョーンズという魚人海賊だった。
リュウグウ王国の乗っ取りを企んだ彼は、居合わせた麦わらのルフィに計画を阻まれ、現在は投獄されている。
ホーディの意志を継ぐ者は誰もいなかったため、ここの治安は以前より劇的に良くなったと言える。
しかし、もとが最低だっただけに、周囲のイメージが払拭されるには、まだまだ時間が必要だろう。
「…お前、少しでもちょろちょろしやがったら承知しねェぞ。」
いつでもどこでもトラブルに巻き込まれるモモに、ローがじろりと釘を差す。
だが、差されたモモは失礼な…とばかりに頬を膨らませる。
「いくらなんでも、海の中に飛び込む無茶はしないわ。」
ローはどこまで自分をバカだと思っているのか。
今はメガロの背に作った空気のあるシャボンの中にいるけど、モモだって暗い海中に飛び込めば、どうなるかくらいわかっている。
でも、海の中が危険なのは、むしろローの方だろう。
「ローこそ、無茶しないでね。泳げないんでしょう?」
昔、オバケの森でローがユグドラシルに捕らわれ、彼を失うかもしれないと思ったあの時の恐怖を今も忘れられない。
不思議ね。
離れていた時は、ただあなたの夢が叶うことを祈っていればよかったのに、近くにいる今の方が不安で堪らないなんて。
「は…。誰に言ってやがる。」
自信家なローは不敵に笑うが、モモの不安の種は消えなかった。
そんな2人の様子を、しらほしは少し離れたところから見ていた。