第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
街はずれの一軒家。
そこが船大工兼植物学者、デンの家だった。
光が失われ、夜のような暗がりだったこともあり、町人や追っ手に見つかることはなかった。
コンコン。
しらほしの手から下ろしてもらったモモが、玄関をノックした。
すると中から「誰だい?」と返事があった。
「あ、えっと…。」
なんて言えばいいんだろう。
名前を名乗ったところで、誰?って感じだろうし。
ご近所付き合いというものをしたことがないモモは、こういう時の対処に弱い。
「海賊だ、船のコーティングを頼みたい。」
ひとりであたふたとしていると、後ろからローが用件を告げた。
ああそっか、用件を言えば良かったのね…。
ガチャリ。
すぐに扉が開かれ、中からハットとメガネが似合うお洒落な男性人魚が現れた。
「なんだ、お客さんか…。悪いが、街中大混乱でコーティングなんて状況じゃないんだが--」
困った様子で説明し始めたデンは、来訪者に目を向けた。
大人しそうな美人さんと、目つきの悪い男。
そしてその男にやけにソックリな子供。
子供の頭には緑色の奇妙な物体が乗っている。
植物か…?
つぶらな瞳を持つ物体には、植物学者であるデンの心をくすぐったが、今はそれどころじゃない。
長年研究していた陽樹 イブが大変なことになっている。
せっかく訪ねてきてもらったのに申し訳ないが、今は出直してもらうしかない。
そう思って再び訪問者に視線を戻すと、3人の後ろにもうひとり、大きな人魚がいるのがわかった。
「デン様、お久しぶりです…。」
控えめに挨拶をする彼女を、デンは知っていた。
いや、デンだけでなく、このリュウグウ王国の者なら誰でも知っている。
だって、彼女は…。
「って、ええぇぇえ! しらほし姫ェ!?」
デンがしらほしの登場で驚いたのは、これが人生で二度目だった。