第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「しらほし姫様、状況はよくわかりませんが、城へ戻りましょう。」
ようやく冷静を取り戻した護衛兵が松明を灯し、しらほしのもとへとやってきた。
「その方がいいわ、しらほし。こんなに暗いと危ないから。」
お姫様の身になにかあっては大変だ。
しかし、しらほしはモモのことを心細そうに見つめる。
「それなら、モモ様も一緒においでください…!」
「え…。」
それはちょっと、どうだろう。
せっかく人魚姫と仲良くなれたのだし、モモだってまだまだ話がしたいが、行き先は王城だ。
敷居が高いなんてもんじゃない。
「危ないのはモモ様も同じでごさいましょう? …どうか、おいでください。」
「えっと…。」
確かに真っ暗闇は怖いけど、自分にはローがいるから平気だ。
なかなか断れないでいるモモを見て、ついにはローが口を挟んでしまう。
「いらねェ世話だ、お前たちだけで帰れ。」
素っ気なく言われて、しらほしの肩がピクリと震えたのがわかったが、彼女は泣かなかった。
「でも…、でも…ッ」
ここで別れたら、モモたちにはもう二度と会えないと思う。
しらほしは王女で、そう簡単に外へ出かけられるわけではない。
今日は久しぶりのお散歩だったのだ。
それに、原因はまだわからないが、こんな事件が起きてしまっては、しばらく外へ出してはもらえないだろう。
しらほしがモモたちを城へ誘うのは、彼らのことが心配なのも本当だけど、半分以上は彼女と一緒にいたいからだ。
せっかくお友達になれそうなのに…!
こればかりは素直に引き下がれない。
「あー…、キミたち。どのみちこの様子じゃ、タクシーも捕まらんぞ。」
しらほしの意見を擁護するつもりはないのだろうが、護衛兵のひとりが言いづらそうに告げる。
「街までどうやって戻るつもりだ。水路は長いし、人間じゃとても泳ぎきれないと思うが…。」
それ以前に、ローはカナヅチである。
「……。」
しばし無言で考えたローは、選択肢がひとつしか残されていないことにため息を吐く。
「ハァ…、好きにしろ。」
「……!」
お許しが出たと知って、しらほしの顔に満面の笑みが浮かんだ。
それにつられて、モモも自然と笑顔になった。