第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
「降ろして、ロー。先に街に戻っていてもいいから。」
「なんだと?」
ローが不機嫌になった雰囲気が伝わってきたが、今はしらほしを優先させたい。
こんな暗闇の中、兵士たちはパニックを起こすし、傍に誰もいなかったら不安で仕方ないだろう。
傍にいたからといって なにもできないけど、彼女が落ち着くまでの話し相手くらいにはなれる。
「ワガママ言ってごめんなさい。でも、放っておけないの。」
正直に言えば、ローが自分を置いて街に戻ることはないってわかっている。
こんなことを言い出せば、優しい彼はモモに付き合うしかないだろう。
それをわかっていながら、ワガママを言う自分は卑怯だ。
その昔、ローはモモに「ワガママを言っていい」と言ってくれたけど、今の彼も同じとは限らない。
昔のローと今のローは、同じ人だけど別の人だ。
過去の約束を、当たり前のように求めちゃいけない。
「ハァ…。」
それでも、やはり彼は彼。
昔と同じように、呆れたため息ひとつ吐いてモモのお願いをきいてくれる。
「もういい、わかった。好きにしろ。」
けれどローはモモを降ろすことなく、抱え上げたまま、しらほしの方へと足を進めた。
その後ろをコハクとヒスイが黙ってついて来た。
「ひぐ…、ひっく…。」
しらほしに近づくにつれ、彼女の嗚咽が大きくなり、恐怖に泣いているのがわかった。
「しらほし!」
「…モモ様ぁ!」
モモの声に反応した しらほしは、声の主を探して手を伸ばす。
そこでようやくローの腕から降ろしてもらい、彼女の大きな指に触れた。
「わたしはここよ。大丈夫?」
「ふぇ…、恐ろしゅうございます…ッ」
指先からでもわかるくらい、しらほしは震えている。
(どうしよう…、とりあえず落ち着かせなきゃ。)
そして落ち着かせなくちゃいけないのは、しらほしだけではない。
突然の暗闇にパニックを起こす兵士たちもだ。
彼らを落ち着かせる方法を、モモはひとつしか知らない。