第41章 消えた灯りと人魚姫の歌
モモの身体に他にケガがないと確認したローは、彼女の腰に手を回した。
「なに…? って、きゃ…ッ」
暗くてローがなにをしようとしているのか気がつかなかったモモは、急に浮いた身体に驚きの声を上げる。
しかし浮遊感にジタバタとするヒマもなくローに抱え上げられ、暗闇の中、彼の首にしがみつく格好となる。
「急になにするの…!」
抗議の声を上げるけど、モモを抱えたまま、ローは悪びれもなく立ち上がった。
「また転ばれても困るんだよ。」
「も、もう転ばないわ。」
自分でも信用できない発言だなと思ったが、案の定、ローも同じことを思ったようで、フンと鼻で笑われただけだった。
そのまま歩き出すローは、まるで前が見えているかのようにしっかりとした足取りだ。
「ロー、もしかして見えてるの?」
バケモノ並みの強さを持つ彼は、まさか視力までもがバケモノ級なのか。
「イヤ…。だが、見えなくても気配でわかる。」
気配ってなに?
目が見えなくてもなにがあるかわるものなのか。
試しに一生懸命感覚を研ぎ澄ませてみるけど、みんながパニックになるざわめきしかわからない。
「ダメ、全然わからないわ。」
「だろうな。だから、おとなしくしてろ。」
当たり前の結果に、ローが少し笑ったのがわかった。
こういう気配なら、わかるんだけどな。
「…ロー? 母さんを連れてきたか?」
どうやらコハクのところまで来たようで、下から心配そうな声が聞こえた。
「コハク、わたしは大丈夫よ。」
彼にもケガはなさそうだ。
「ここは騒がしい。なにが起きたかは知らねェが、1度街に戻るぞ。」
コハクにそう言うと、ローは来た道を引き返そうとする。
だからモモは慌てて引き止めた。
「待って! しらほしが怖がってるの。」
怯える彼女を置いてはいけない。
「放っとけ、兵士がいるだろ。」
このまま残って面倒事に巻き込まれるのは、遠慮したいところだ。
「でも…!」
「うぇーん、モモ様ぁ…ッ」
しらほしが自分の名を呼んだ。
そうしたらもう、いてもたってもいられなくなる。
大きな大きな人魚姫。
彼女を守るのは、きっと自分ではない。
けれどモモは、彼女のことがなぜだか放っておけないのだ。