第40章 深海の島と海の森
似ていないといえば、コハクはモモの息子だというのに、まったく彼女に似ていない。
それをついつい口にしてしまう。
「コハク様は、モモ様にあまり似てらっしゃらないのですね…。」
「えっと…。まあ、そうね。」
しらほしに悪気はないのだろうが、モモとしてはこの場でその話題は避けたかった。
なぜならば、ここにコハクがいて、そこにローがいるからだ。
あまり話をほじくり返されても困る。
モモはこの話をこのまま流してしまおうとした。
しかし…。
「オレは父さん似なんだよ。」
1番触れられたくない部分に、コハクはいとも簡単に触れてしまう。
「ちょ…ッ」
焦って取り乱してしまうけど、なにも知らないコハクは当然ながら涼しい顔だ。
「コハク様のお父様は、コハク様に似てらっしゃるのですか?」
「そ、それは…。」
案の定、しらほしは痛いところを突いてくる。
自分がセイレーンであることを言うのとは違って、コハクの父親のことをローに話すつもりは一生ない。
しかし、ここで否定をしては話がおかしくなってしまう。
「…そうね。コハクは父親似よ。」
結局、認めることしか出来ず、絞り出すように白状する。
今、怖くてローの方を振り向けない。
お願い。
これ以上、話を広げないで…。
「…そうでしたの。わたくしたち人魚と魚人は、先祖のどの魚として生まれるかまったくわからないので、そういう感覚は羨ましいです。」
しらほしはビッグキスの人魚。
シーラカンスの人魚である父親にも、金魚の人魚である母親にも、そして兄3人にも誰にも似ていない。
もし母親に似ることができたなら、毎日鏡を見て母に会うことができるのに。
しかし、人間とは不思議なもの。
コハクの顔立ちは、すぐ傍にいるローにとても似ている。
けれど先ほどの様子からして、彼らに血の繋がりはないのだろう。
実の母親のモモよりも、他人であるローに似ているなんて、とっても変だ。
しかし、幸か不幸か、しらほしがそのことを口にすることはなかった。
(わたくしたちと同じように、人間の方の血筋にもいろいろとあるのですね…。)