第40章 深海の島と海の森
こんなふうに誰かに驚かれるのは、ひさしぶりだ。
モモにとって、自分に息子がいるのは当たり前の事実だし、今まで誰かに出会うことがなかったから、こういう反応は新鮮だ。
(そっか。普通、驚かれるものなのね。)
モモは今、23歳。
年だけで言うならば、子供がいてもおかしくはない。
けれどコハクほど大きな子供が…といえば話は別。
ついでにモモの幼い顔立ちが、実年齢より下に見せているのもひとつの原因だろう。
別に隠していたわけじゃないが、結果的に驚かせてしまって申し訳なく思う。
「驚かせちゃってごめんなさい。コハクはわたしの息子なのよ。」
素直に詫びると、しらほしはハッとしたように手を口に当て、頬を染めて恥じらった。
「わたくしこそ、申し訳ありません。こんなふうに不躾に驚いては失礼ですのに…。」
本当に驚いたものだから、つい取り乱してしまった。
もしかしたら、モモに嫌われてしまっただろうか。
彼女とは、仲良くなれたような気がしてたから、もしそうならとても悲しい。
「モモ様…、怒ってらっしゃいますか?」
恐る恐る尋ねてみると、モモは「まさか!」と首を振った。
「そんなことで怒らないわ。むしろ、ちゃんと紹介しておかなかったわたしのせいなんだから。」
ごめんね。と笑うモモは、どことなく しらほしの母親“オトヒメ”に似ていた。
姿も雰囲気も、なにひとつ似ているところはないのに。
それは“母親”が作り出す空気そのものなのかもしれない。
(お母様が生きてらっしゃったら、こんなふうに笑ってくださったかしら。)
しらほしは、モモの笑顔に知らずとオトヒメの笑顔を重ねていた。