第40章 深海の島と海の森
コハクの父親か…。
“オレは父さん似なんだよ”
先ほどコハクが言ったことを聞いて、そういえば彼は全然モモに似ていなかったんだってことを思い出した。
少しクセのある黒髪に、性格の悪そうな目つき。
まだ見ぬライバルは、どうやらあまり好感を持てそうな面構えではないらしい。
その顔に似ていると言われたローの心境は、なかなか微妙ではあるが…。
いつかコハクの父親と会う日が来たならば、一目でコイツだとわかったりするのだろうか。
その時自分は、いったいどんな気持ちになるのだろう。
コハクの、父親…。
胸に広がるモヤつきの中には、モモに対する嫉妬心とは別に、もうひとつの感情が芽生えている。
けれど、この時のローはまだ、その正体に気づかない。
未発掘の想いは、もうしばらく眠る。
「さあ、ヒスイ。そろそろ行きましょう。」
光輝く世界樹をいつまでも見ていたい気持ちはモモにもわかるが、ここでずっとこうしているわけにはいかない。
挨拶が済んだのなら、次の目的地に行かなくては。
「きゅい。」
ヒスイ自身も満足したのか、素直に根から顔を上げる。
かつて出会った世界樹ユグドラシルは人語を操ったが、この陽樹 イブは言葉を話すことはできるのだろうか。
「陽樹 イブはなんて言ってたの?」
「きゅ…。」
今まで挨拶をしていたはずのヒスイに尋ねてみたけど、なんだか様子が変だ。
少し落ち込んでいる…?
もしかして、陽樹 イブに挨拶を返してもらえなかったのだろうか。
植物にだって、いろんな性格がある。
表情をよく表に出す子もいれば、引っ込み思案な子もいる。
陽樹 イブは、内気な世界樹なのかもしれない。
(わたしも挨拶していこうかな…。)
せっかく会えた世界樹だ、返事をもらえなくても言葉は聞いてもらえるだろう。
眩く光る樹の根に近づく。
(触れたら熱かったりするのかな…?)
一抹の不安を抱きながら、そっと太い根に触れた。
…その時だった。
フッ…。
絶えず光を放っていた陽樹 イブが、突如として輝きを消した。
途端に、魚人島を暗闇が包み込んだ。