第40章 深海の島と海の森
これが…、陽樹 イブ…。
太陽の光が届かないほど深海にある魚人島が、どうしてこんなに明るいのだろうと思っていた。
「不思議でございましょう? この陽樹 イブは、地上の光をそのまま樹の根に灯してくれるのです。」
「地上の光を、そのまま…?」
確かに言われてみれば、陽樹 イブの根は昼間の太陽のように輝いている。
「すごいわ、どういう原理になっているの?」
こんな樹、初めて見た。
光の伝道はどのように行われているのだろうか。
「残念ながら、それはわかっておりません。魚人島には何人もの植物学者様がいらっしゃいますが、陽樹 イブの生態は謎のままです。」
「そうか…、そうよね…。」
なんたって世界樹だ。
何千、何万年生きたかわからない世界樹を、自分が理解するのは難しい。
薬剤師でありながら、植物学者でもあるモモにはそれがよくわかっていた。
それにしても、世界樹とはなんて素晴らしいのだろう。
「きゅきゅ~!」
モモの後ろから飛び出してきたヒスイが、陽樹 イブの根へ飛び乗った。
「ヒスイ?」
「きゅいー。」
ヒスイはその温かな根に身体を擦り寄せて、目を閉じた。
「…もしかして、あなた、陽樹 イブに会いたかったの?」
「きゅう。」
以前、魔術師のカードに惹かれたことのあるヒスイは、なにか目に見えない力を感じることができるのだろう。
そして、世界樹といえばヒスイたち植物にとって神様みたいな存在。
一度挨拶をしたいという気持ちは、なんだかわかるような気がした。
「そういうことだったのか、ヒスイ。ごめんな、気がつかなくて。」
ようやくヒスイの気持ちを理解したコハクの表情は、先ほどの拗ねたものではなく、相棒を気遣うものに変わっていた。
「それにしても、すっげぇ樹。」
モモと違って、コハクは世界樹を初めて見る。
この世界にこんなに大きな樹があるなんて知らなかった。
外の世界のことは、本でたくさん読んだはずなのに、実際に冒険してみるとこんなにも違う。
そのことをたった今、実感している。