第40章 深海の島と海の森
(は、早い…!)
一緒に駆け出したはずなのに、ローはモモをどんどん離して先へ行ってしまう。
あのぶんならすぐにコハクに追いつくだろうから、たいへん心強いが、それについて行く方は必死だ。
あっという間に後ろ姿が見えなくなって焦る。
(あ、あれ…。どっちに行った…?)
森の中は同じような景色が続く上に、目印がない。
(う、うそ。迷子になっちゃった…。)
もしかしたらコハクがピンチかもしれないのに、駆けつけるどころか道に迷ってしまうとは、自分の情けなさにほとほと呆れる。
「えっと…。ロー! コハクー!?」
とりあえず2人の名を呼んでみるけど、返事はない。
「おかしいな…。そんなに離れてるはずないんだけど。」
このシャボンエリアにいることは間違いないのだから、適当に歩いていれば合流できるだろうか。
ここで立ち止まっていても仕方がないので、森の奥へ足を進めることに決めた。
「---。」
「ん…?」
しばらく歩いていると、誰かの話し声が聞こえた気がした。
もしかして、ローとコハクだろうか。
合流の兆しが見えて、モモは声のもとへと近づいていく。
「ロー…?」
ガサリと茂みを分けて進み出ると、頭上でゴソリとなにかが動く気配を感じた。
「……?」
なんだろう。
海の森には、まさか猛獣でもいるのだろうか。
そろりと視線を上げてみた。
「……。」
「……。」
まず、目が合った。
モモの頭ほどありそうな、大きな瞳と。
海色の青い瞳が綺麗だな…なんて場違いなことを思っていると、その瞳が次第にウルウルと潤み始める。
(え…?)
ようやく我に返ったモモは、その人物をやっと見ることができた。
(お、大きい…。)
彼女の大きさに唖然としていたから、今の状況をついつい忘れてしまう。
「ひ、ひっく…。」
「え…?」
急に聞こえだした嗚咽に、モモは目を丸くした。
次の瞬間、上から大粒の雫がボタリと落ちてきた。
ビチャン…!
「きゃあ!」
とっさに避けたけど、もしも当たっていたら全身ずぶ濡れになるところだ。
しかし、雫は次から次へと落ちてくる。
「う、うえーん…!」
涙を流す彼女は、見たことないくらい大きな大きな人魚だった。