第40章 深海の島と海の森
「待って、コハク。ヒスイだって理由もなくこんなことしないわ。ここに来たかった理由があるのでしょう?」
優しく訪ねると、ヒスイはしょぼくれた瞳をモモに向け、コクリと頷いた。
「だったら…、そう言えば良かったじゃんか。」
コハクは相談もなく行動したヒスイに、納得ができない様子だ。
そう思う気持ちもわからなくはない。
でも、ヒスイにだって意志を伝える時間も惜しいほど、はやる気持ちのときだってあるだろう。
付き合いの長いモモには、そのことがよくわかっていた。
それでも納得しきれないコハクに、どう説明しようかと考えいると、声を上げたのは意外にもローだった。
「…どのみち、ここまで来ちまったんだ。ソイツの好きなようにさせてやったらどうだ。」
「ロー…。」
正直、ローがヒスイを庇ってくれるとは思わなかった。
ローからしてみれば、ヒスイはよくわからない行動をとる生き物でしかないだろう。
それを思えば、今回1番振り回されたのは、彼だと思うから。
ローにまでそう言われてしまえば、納得しないわけにはいかない。
コハクはキツく抱いた腕を緩め、捕まえたままのヒスイを見下ろした。
「…ヒスイ、行きたいところがあるのか?」
「きゅいぃ…。」
腕の中のヒスイは、申し訳なさそうに鳴く。
「…わかったよ、一緒に行こうぜ。でも、次からはちゃんと相談しろよな。」
「きゅきゅ!」
約束するように首を振ったヒスイは、コハクの腕からピョンと降りると、「ついて来て!」とばかりに走り出した。
「待てよ、ヒスイ。走るなって…!」
そのあとをコハクが元気よく追っていく。
「……。」
「…なんだよ。」
見つめていたことに気がついたのか、ローがこちらを見る。
「いや…。あなたの言うことは素直に聞いたなぁって思って。」
コハクは、ローのたった一言で気持ちを切り替えたから。
「別に…、ああいうのは男から言った方が聞き入れやすいもんだ。」
「…そっか。」
男の子だから、そういうこともあるかもしれない。
「これからも、たまに頼んでいいかしら?」
「ああ、アイツは俺の…弟子だからな。」
そう言いながら、弟子というワードに少し違和感を覚えたが、それがなぜなのかはよくわからなかった。