第40章 深海の島と海の森
世界には、世界樹と呼ばれる神木がいくつか存在している。
その昔、モモが出会ったのは、ユグドラシルと呼ばれる世界樹の小枝から移植された化身だった。
ユグドラシルの本体ではないとはいえ、人語を操り、身体を触手のように動かせるなど、樹だというには少々化け物じみていたと言わざるを得ない。
強大な力を持った世界樹。
そんな樹が、この魚人島にも…?
しばらくヒスイのあとを追っていると、海底の一郭に光で照らされた場所を見つけた。
ところどころシャボンに覆われて空気が生まれているスポットもあるその場所は、海流のせいだろうか、沈没した船の残骸がたくさん流れ着いている。
もう二度と走ることのできなくなった船たちを、木漏れ日が優しい包む様子が印象的だ。
(あれ…そういえば、ここは深海のはずなのに、どうして日が射しているのかしら。)
今さらながら気づいた事実に、モモは首を傾げる。
エリアに入ったヒスイを追い、モモたちもシャボンの中へ入った。
そこでようやく止まったヒスイに安堵し、ここまで連れてきてくれたお魚タクシーから降りた。
「ここが海の森だ。」
「ここが…。」
ぐるりと周辺を見渡した。
豊富に生えた海藻は草原のように広がり、合間に生えるサンゴ礁もまるで植物のよう。
そしてなにより、海底から本物の樹が生えているのだ。
水中で、それもこんな深海に根付く木々があったなんて知らなかった。
なるほど、これなら森というのも頷ける。
モモが感心したように見入っていると、タクシーを降りたコハクが飛びつくようにヒスイを捕まえた。
「ヒスイ! コノヤロー、勝手に行動しやがって。はぐれたりしたらどうするんだよ!」
「きゅ…ッ、きゅきゅぅ…。」
一瞬コハクの腕の中で身をよじったヒスイだったが、心配させたことがわかったのだろう、触角を萎らせて大人しくなる。
しょぼくれた目が、心なしか潤んでるような気がする…。