第40章 深海の島と海の森
それから店主が持ってきてくれた生薬の珍しさに、またもやモモは興奮状態に陥り、ローとコハクを呆れさせた。
ローの「必要ならば買ってもいい」という言葉に甘え、ユグドラシルの知恵をフル回転させて生薬を選ぶ。
その様子を見ながら、彼女のユグドラシルの知恵というのは、つくづく不思議なものだと思った。
自分の知らない知識が頭の中に存在している。
それはローにはわからない感覚。
「…ユグドラシルの知恵ってのは、どういうものなんだ。」
薬選びに夢中なモモの代わりに、隣にいたコハクに尋ねた。
「さあ? 母さんは、頭の中に引き出しがひとつ増えた感じだって言ってたな。でも、引き出しの中身が多すぎて、その時自分の必要なものしか取り出せないんだってさ。」
モモ自身、その引き出しになにが入っているか、まだ把握しきれていないんだろう。
「世界樹ってのは、何千年、何万年も生きてるからすごい知識を持ってるんだってさ。母さんが授かったのは、そのほんの一部だよ。」
このグランドラインに、世界樹と呼ばれる樹がいくつかあることはローも知っている。
どの樹もモモたちが言うような力を持ってるわけではなさそうだが。
そういえば、確かこの魚人島にも…。
「おい、ヒスイ。さっきからなにもぞもぞしてんだよ。」
コハクの頭の上に乗っていたヒスイは、なにかが気になるのか、どうにも落ち着かない様子だ。
そのたび髪を引っ張られたり、耳を踏まれたりするコハクは堪ったものではない。
そういえばヒスイは、昨夜から少し落ち着きがなかったかもしれない。
「どうした、ヒスイ。」
「きゅうぅ…。」
相棒の気持ちはわかっているつもりだけど、この時なにを言いたいのかまではわからなかった。