第7章 昔の女
メルディアから薔薇のような濃く甘い香りが漂った。
それをキツいと感じたのは、メルディアに一切の興味がなくなったからか、それともあのカモミールの香りに慣れすぎたからか。
そう思うと急に彼女が恋しくなった。
メルディアが来た途端、サッサと席を立ったモモ。
不快な思いをさせてしまったのではないか。
今すぐ抱きしめて誤解をときたい。
「…やだ、なに考えてるの?」
「自分の女のことだ。」
「それってあの子のこと?」
そういえば、名前すら聞いていない。
ローとメルディアは3年前、互いの利害が一致し、共に行動をした方が都合が良かったから『恋人』という関係になった。
それが破綻したのは1年後、メルディアが他の男と関係を持ったから。
メルディアの裏切りともいえる行為に対してローは怒りもせず、別れを切り出した。
理由は簡単。
「目的に対して、より有益な相手がいるなら、そっちを優先すべきだ。」
ローはそう告げたのだ。
それから情報交換のため、どこかで会うこともあったが、その後も体の関係だけは続いた。
それはただの性的欲求の解消という利害が一致した結果。
その間、ローに他に女がいようとも関係なかった。
ローという男は、女の機嫌や気持ちなど、考えもしない冷酷な人だ。
それがどうだろう、メルディアは今ここにいるローが、以前、情を交わした男と同じ人物だとはとても思えなかった。
「ねえ、どこがいいの? あんなつまんなさそうな子。」
嫌味ではなく、純粋な興味から聞いた。
「………。」
どこだろう。
初めは厄介な拾いもの、としか思ってなかった。
それから薬剤師としての能力を利用できると思った。
彼女はローの知らない知識をたくさん持っていたから。
無理だと思った難題を、いとも簡単にクリアし得意げな彼女を見て、驚きと共に悔しさも感じた。
その頃から、なんとか彼女を船に残せないかという思いが生まれた。
彼女を『女』として意識したのは、ちょっとした勘違いから入浴している瞬間を覗いてしまったとき。
美しく、無垢な身体に目を奪われた。
手に入れたい、と強く感じたのは、彼女を泣かせたとき。
彼女の涙が美しくて、泣き顔が可愛くて、その涙を止めるのは自分だけ。
泣き虫な彼女を誰にも渡したくないと思った。