第40章 深海の島と海の森
カランカラン…。
「おや、いらっしゃい。」
店の中に入ると、魚人の店主が珍しそうにこちらを見た。
きっと人間の客はあまり来ないのだろう。
しかし、そんなことを気にする余裕はモモにない。
棚に並ぶ商品に目を輝かせることで忙しいのだ。
どれもこれも、見たことのないものばかり。
その感動ときたら、魚人島を見たときの比ではない。
「店主さん、この薬はなにに使うもの?」
「え…、ああ、それかい? それはウロコが剥がれてしまった傷に塗ると、次のウロコが早く生えるんだよ。」
唐突に質問をするモモに、店主は嫌な顔ひとつせず、丁寧に教えてくれた。
「こっちの薬は?」
「そっちは保湿剤だよ。金魚やイワシみたいに弱い魚の魚人と人魚は、ちょっとの乾燥ですぐ身体が傷むから。陸地での作業には必需品なのさ。」
「そうなの…。」
ほう…と感嘆の息が出る。
世界には、まだ見ぬ薬がこんなにあったのか。
「でも、どれもアンタみたいな人間にゃ、必要ないものだと思うけどね。」
どれも魚人と人魚のための薬だ。
彼らは身体のつくりからして人間とは違うから。
「ううん、すごく勉強になるわ。店主さん、生薬が見たいのだけど、見せてもらえる?」
「はー、アンタ変わってるねぇ。ちょっと待ってな…。」
どうやらウツボの魚人である店主は、ニョロニョロと店の2階へと上がっていった。
「母さん、言っても無駄だろうけど、ほどほどにしろよな。」
「あら? コハク…。いつからいたの?」
いつの間にか隣にいたコハクの存在に目を見張る。
「…最初っからいたけど。」
「え、全然気がつかなかった。」
まあ、そうだと思ったけど。
モモは興奮状態に陥ると、たいがい周りが見えなくなる。
「先にローたちのとこに行ってていいのよ?」
たぶん、長くなりそうだから。
付き合わせては可哀想だと提案すると、コハクは呆れたように入口を指差す。
「ローたちって…。ローはずっとあそこにいるけど。」
「え…?」
驚いて入口を見ると、大太刀を壁に掛け、寄りかかったままこちらを眺めるローの姿が。
ロー。
マーメイドカフェに行ったんじゃなかったんだ…。