第40章 深海の島と海の森
散々髪をぐしゃぐしゃにされたあと、ローは呆気なく部屋を出て行った。
ひとり部屋に取り残されたモモは、しばらくの間、呆然と立ち尽くしてしまった。
(なに、今の…。)
額に触れれば、ローの熱がまだ少し残っている。
思い出すと、みるみるうちに頬が熱くなっていくのがわかった。
わかってる。
ローはただ、自分が急に元気がなくなったから、病気かと思って心配してくれただけだ。
他意なんかない。
わかってる、わかってるんだけど…。
一瞬、近づいてきたローに、キスをされるのかと思った。
「~~ッ」
とんだ勘違いに恥ずかしくなり、その場にしゃがみこむ。
しかも、キスをされそうになった時、心に浮かんできたものは、戸惑いだけではなく“嬉しさ”も含まれていたこと。
ほんの1週間前までは、ローが自分にそういうことをするのが、嫌で嫌で仕方がなかった。
それなのに、今では“して欲しい”だなんて。
自分の勝手さに呆れ果てる。
もちろん、それには大きな心境の変化があったからなのだけど。
ローが自分以外の女性に興味がないことを知った。
願望かもしれないけど、彼にとって自分は特別であることを知った。
そして、今のローに恋をしてしまったことを知った。
愛しくて愛しくて、しょうがない。
キスをされる、だなんて妄想をしてしまうくらい。
ドスン。
「……ッ」
隣の部屋で、なにかが沈む音がした。
そう、壁の向こうにはローがいるのだ。
そんなの、この船に来てからずっとそうだったのに、今さらこんなに意識をしてしまうなんて。
「ハァ…。」
震える手で胸を押さえると、知らずとため息が零れた。
心臓がドキドキうるさい。
あなたを好きってだけで、世界がこんなに変わるなんて信じられない。
「どうしよう…。」
今夜は、眠れそうにない。