第40章 深海の島と海の森
結局お茶のおかわりまでして十分寛いだローは、今度はモモの部屋を観察する。
それにしても、本当になにもない部屋だ。
遠い昔、まだ女と付き合いがあった頃、彼女たちの部屋へ行ったこともあった。
でもどの女の部屋も、もっとゴチャゴチャしていて、決まって香水のキツイ匂いが漂っていたものだ。
モモの部屋はというと、ふんわりカモミールの香りが漂っている。
でもそれは、部屋そのものから香るわけではなく、モモ自身の香りが部屋に移ったものだろう。
最初は妙に胸が騒いだこの香り。
でも、今ではものすごく落ち着く香りに思えた。
時折、ヒスイからも同じ香りがする。
きっと、一緒にいる時間が長いから、香りが移ってしまうのだ。
それが少し、羨ましい。
そんなヒスイは窓辺に座り、なにがおもしろいのか水中をジッと見つめていた。
ふと、その隣に小さな小瓶が2つ並んでいるのに気がつく。
飾り気のない部屋に唯一置かれているソレが気になり、何気なく手に取ってみると、ひとつは空で、もうひとつには小さな紙切れが入っている。
(これは…、ビブルカードか?)
持ち主の居場所を教えるように僅かに動く紙切れは、間違いなくビブルカードだ。
なぜモモがビブルカードを…?
そんなふうに思ってソレを見つめていると、伸びてきた白い指がスルリと手にしていた小瓶を攫った。
「もう、勝手に触って…。わたしの宝物なのよ。」
そう言ってモモは大事そうに小瓶を窓辺に戻した。
「それはビブルカードだろう。」
「そうよ。」
ビブルカードは新世界でしか作れない。
だからモモはその存在を知らないと思っていたが、ちゃんとわかっていたらしい。
わかった上で“宝物”と呼ぶなんて…。
「…誰のだ。」
カードの持ち主が気になる。
間髪入れずに問いただした。