第40章 深海の島と海の森
「…子守歌?」
一瞬聞き違いかと思ったが、ローの問い返しにもモモは「うん」と頷いてみせた。
まさか眠らせる方法が子守歌とは…。
まだ薬を処方された方がマシだった。
まったく異性として見られていないような発言に、知らずと不満が募る。
しかし、そんな僅かな反応もモモにはわかるようで…。
「あれ、どうして怒るの?」
「怒っちゃいねェよ。なんでそう思う。」
自分で言うのもなんだが、ローは無表情だ。
なにも考えずに黙っているだけで、怒っていると勘違いされるくらい。
だからモモのように、自分の心情を当ててくる人間は初めてだ。
「なんでって…。今、機嫌悪くなったじゃない。あ、ほら、眉間のシワが1本多いわ。」
そう言ってモモは、おもしろそうにローの眉間を指差す。
眉間のシワだと?
コイツ、そんなもんまで見てんのか。
意外にも観察されていたことに恥ずかしくなり、さらに眉間を寄せた。
「ふふ、照れてる。」
「…ッ、照れて…ねェ!」
そんなとこまで見抜かれて、もはや彼女の顔を見ることすらできなくなる。
コイツ、ムカつく…!
こっちはモモが喜ぶことひとつ思い浮かばないのに、彼女はというと、こちらのことを全部わかっているかのようだ。
その差が不公平に思えて、なんだか堪らなく腹が立つ。
ああ、でも。
自分を見て笑うモモは、とても嬉しそうだ。
彼女の喜ぶポイントは未だわからないけど、その笑顔が見れただけでも良かったと思えた。
その笑顔を1番近くで見ていたい。
自分のものにしたい。
最初は笑顔を見れるだけでいいとすら思っていたのに、それが叶うと次々に欲求が生まれてきて。
人の欲とは恐ろしい。
せめてその欲をモモにぶつけることのないよう、今は気を引き締めるばかりだ。
ただでさえ、前回は失敗してしまった。
モモへの想いを自覚した今、またあんなに傷ついた目を向けられたら…。
自分はもう、どうしていいのかわからなくなるだろう。