第40章 深海の島と海の森
ローの自室は船の最奥にある。
モモの部屋はその手前。
だから部屋に着くのは、ほんの少しモモの方が早い。
「えっと…。それじゃ、おやすみなさい。」
ドアの前でこちらを振り返ったモモは、躊躇いなく別れの言葉を口にする。
そのあっさりとした態度が、なんとも気に入らない。
「……。」
「…あの、ロー?」
いつまで経っても挨拶を返さないローに、モモは戸惑う。
それはそうだろう。
状況から言って、別れの挨拶をするのはなにもおかしくない。
それなのに、ローは不機嫌さを露わにして、なおかつ立ち去りもしないのだ。
モモからしてみれば、ローの行動こそ理解できないものだろう。
(もう少し…一緒にいたいとか思わねェのか。)
モモに責めるような眼差しを向けてやるけど、彼女を責めたって仕方のないことだとはわかっていた。
なぜなら、そう感じているのはローだけのはずだから。
自分が一緒にいたいからって、相手に同じ気持ちを求めるのは間違っている。
でも、間違っているとわかってはいるが、こうして目の前で別れを告げられると、どうしたって腹が立つのだ。
「……。」
けれど、まさかモモにその気持ちを打ち明けるわけにもいかず、こうしてただ睨むことしかできなかった。
(…あれ、なんか拗ねてる?)
一方、モモはというと、実はローが考えているより彼の心情をキチンと理解していた。
それもそのはず。
モモの中には短い間だったけど、共に愛し合った密度濃い記憶が残っているのだから。
だから、今のローが怒っているわけではなく、ただ拗ねているのだとすぐにわかる。
しかし、その原因についてはイマイチわからないけど。
とりあえず、自室に立ち去らないところを見ると、モモになにか用事でもあるのだろうか。
「…お茶でも飲んでいく?」
「……!」
試しにお茶に誘ってみると、ローの表情に変化があった。
一瞬だけど、嬉しそうにしたのだ。
そこまでわかっているのなら、ローの気持ちに気がついてもいいようなものだが…。
(なんだ、お茶が飲みたかったのね。)
モモの思考はいつも斜め上をいく。
この鈍さだけは、もはや病気だというしかない。