第40章 深海の島と海の森
モモと魚人島へ行くのなら、どこへ連れて行こうか。
自分の少し前を歩くモモを見つめながら、ローはそんな想像をした。
シャチとペンギンが言うように、マーメイドカフェはいいかもしれない。
たくさんの人魚たちがもてなすカフェでは、魚人島ならではの料理が食べられる。
ただ、いいとは思うけど、ローはあの場所があまり好きではない。
豊かな肢体を晒し、ダンスを踊る人魚たち。
見るからに甘そうなデザートと、海藻や貝で作られた料理。
いかにも“可愛い”雰囲気を醸し出す店内は、ローが最も苦手とする場所と言っても過言ではない。
しかし、もしマーメイドカフェに行って、モモがあの輝く笑顔を見せてくれるのなら、苦手な場所だって我慢してみせる。
なぜなら、他にモモが喜びそうなことがわからないから。
(コイツ、なにをしたら喜ぶんだ…?)
今まで女を喜ばそうなんて考えたことがない。
まったく興味がなかったから。
男なら簡単だ。
旨い酒とメシ。
ただそれだけで腹を割れる。
でも女が喜ぶことなんて、宝石やドレスを買ってやることくらいしか思いつかない。
でも、そんなもの贈っても、モモはきっと喜ばないだろう。
豪華な宝石よりも、1冊の本で喜ぶような女だ。
ああ、クソ。
なんでこんな面倒くせェ女を好きになっちまったんだ…。
今さら後悔したって、もう後には戻れないけど。
それほどまでに好きになってしまっている。
だからどんなに時間が掛かっても、絶対に振り向かせると決めた。
それなのに、彼女の喜ばせ方すらわからないなんて。
仕方ねェだろ、こんな女初めてなんだ…。
そう、これは初恋。
ガキみたいな甘い響きに背筋が痒くなり、ローは忌々しげに舌打ちをする。
なにも知らないモモが訝しげに振り向き、こちらを見上げる。
だから、もう。
そういう顔で見んな。
本当の気持ちに気づいてから、その金緑色の瞳で見られるだけで、心臓がおかしくなる。
気づかれたくなくて、彼女の頭に手のひらを乗せ、無理やり前を向かせた。
「……?」
モモはローの行動を理解できなくて不思議そうにするけど、わかってもらわなくて結構だ。
今はまだ、想いを伝える時じゃない。
彼女の心の中から“誰か”が消えるその時まで…。