第7章 昔の女
モモの沈黙をどう思ったのか、ペンギンはローとメルディアの関係を語り始めた。
「船長とメル姐さんは、昔、同じ船に乗ってて、一年ほど付き合ってたって聞いたッス。」
「…そうなの。」
「別れてからも情報交換とかで、たまに会ったりしてたみたいッスけど、最近はほとんど連絡してなかったし…。」
だから、気にするな。
そう言いたかったけど、言えなかった。
メルディアが以前から、ローとヨリを戻したがってるのを知ってたから。
(でも、船長は誰がどう見てもモモしか見てないし、なびくことは絶対ないッス!)
「ペンギン、薬屋さん、ここみたい。」
「…え、あ、ほんとだ。」
彼が悶々とどう説明しようかと考えているうちに、目的地に着いてしまったらしい。
「ちょっと行ってくるね。」
笑顔を残してモモは中へ入って行った。
その背中を見送りながらペンギンは「なんだかなぁ」とため息を吐く。
(昔はどうあれ、今の船長の恋人はモモなんだから、心配することないのに…。)
ローの溺愛ぶりは、見てるこっちが恥ずかしくなる。
ローの気持ちに気がつかないのは、いつだってモモひとり。
「こんばんは。」
店内には50代ほどの店主がひとり、まさに店を閉めようとしているのか、片付けを始めている。
「あ、ごめんなさい。閉店ですか?」
「いや、いいよ。なにが欲しい?」
店主の返事にモモはカウンターへ近づく。
「えっと、まずは薬草を買い取ってもらえたらと思って。」
「ふむ、見せてごらん。」
モモはバスケットから薬草を次々と取り戻した。
「おお、これは見事だ…。よくここまで大きくなったね。」
自分の育てた子たちを褒められ、ちょっと得意げになる。
薬屋や病院で取引をするとき、実は薬剤よりも生薬の方が儲けが出る。
というのも、調合して薬にしてしまったものは、服用してみないとその良さがわからない。
いくら薬効の高い薬を作っても見た目では判断できないのだ。
その点、生薬であれば、見ただけで良し悪しが分かる。大きさや艶、香りや鮮度など薬効の高さが窺える。
だからこそ、モモは薬草を売りに来た。