第7章 昔の女
「よろしくね、お嬢ちゃん。」
(お嬢ちゃんって…。)
おそらくモモとそこまで大きく年は違わないだろう。
それは嫌味か、それとも自分が幼すぎるのか…。
「よろしくお願いします。」
「いくつ?」
17歳です、と答えるとメルディアは大げさなほど驚いた。
「そうなの? もっと下だと思ってたわ。ごめんなさいね?」
「いえ…。」
いったいいくつに見えたのだろう。
「でも17歳っていうと、ローが私と付き合い始めたころね。懐かしいわ。」
「メルディア、てめェなにが言いたい。」
ふふ、っと彼女は真っ赤な唇に笑みを作った。
「別に? ただ、女を買うつもりなら、久しぶりに相手をしてもらおうかなって思って…。」
魅惑的な笑みを浮かべ、そのままローへとしなだれかかる。
(…やめて。)
胸が痛い。
壊れそうだ。
「…オイ。」
ガタンッ
モモは勢い良く立ち上がった。
「…ロー、わたし先に出ていい?」
「どこへ行く。」
「薬屋さん。日が暮れてきたし、閉まる前に行きたいの。」
持参していたバスケットを抱え上げる。
「待て、じゃあ俺も…。」
「あら、嫌よ。せっかくの再会なんだから、楽しく飲みましょ。」
メルディアは絡めた腕を離さない。
ローは不愉快そうに、なにかを言おうとしたが、その前にモモが口を挟んだ。
「大丈夫、用が済んだらすぐ船に戻るから。」
もう、これ以上見ていたくない。
そのまま小走りに店の外へ出て行く。
後ろでローがなにか言ったが、聞こえないフリをした。
「待てよ、モモ!」
店を出てすぐ、後からペンギンが追いかけて来た。
「どうしたの?」
「どうしたって、モモひとり夜道を歩かせるわけないッスよ。」
先日もアイフリードに狙われたばかりだ。
「…ごめんね。」
「全然!」
しばらく2人で歩いていると、ペンギンが口を開いた。
「メル姐さんのこと、気にしてる?」
「…どうして?」
「元気ねぇもん。」
「……。」
気にしてないと言えば嘘だ。
でも、それを気にする資格は自分にない。
(わたしはただの、薬剤師だもの。)