第39章 欲しいもの
「いや、もういい…。どうせどこのどいつともわからんのけ。」
犯人が誰かもわからなければ、追跡のしようがない。
そもそも天竜人のために割いてやるような兵力は、今の海軍にはないのだ。
億越えの超新星とか呼ばれる海賊共が、今この時も新世界で暴れまわっているのだから。
『…申し訳ありません。実際、現場で話を聞いても、犯人の目撃情報はなく、どこの誰とも皆目見当がつかない状態です。』
「構わん、戻れ。」
まったく、無駄な時間を使った。
上層部のために一応“動いた”という事実は必要だが、そんなことのために体裁を気にしなくてはいけないことに腹が立つ。
それも元帥の仕事とは、わかっているけど。
撤収の命令を受け、普段なら二つ返事で答える部下だが、今回は電伝虫の向こうで少し渋る様子を見せた。
『元帥…、今回の件ですが、ひとつ気になる点が。』
「なんじゃい。」
部下がサカズキの命令を素直にきかないのは、珍しいことだった。
『それが、呼び出しをかけた例の天竜人、チャルロス聖の言うことです…。』
チャルロス聖。
またあの男なのか。
2年前、シャボンディ諸島で騒ぎを起こしたのもこの男だ。
胸くそ悪い。
海軍を自分たちの尻拭い係かなにかと勘違いしている。
「で、そのアホンダラがどうした。」
『なんでも、今回の件はチャルロス聖が“とある女”を妻に迎えようとして起きたもののようです。』
「とある女…?」
チャルロスが気に入った民間人を無理やり妻に迎えるのは、有名な話だ。
別に変わったことではない。
しかし、それが原因ということは、豪胆にもその女を取り返そうとした人間がいたということだ。
政府の怒りに触れることも恐れずに…。
「たいした強者じゃけぇ。」
しかし、その者の目撃情報はない。
男か女か。
海賊か革命軍か。
それすらもわからない。
『はい。しかし、女の外見だけはわかっています。』
「女の外見…?」
そんなもの、知ってどうする。
天竜人に攫われるような女など、興味はない。