第39章 欲しいもの
『チャルロス聖が妻にと望んだ女は、金緑色の瞳をした、若い女だったそうです。』
「……ッ!」
金緑色の瞳…?
その珍しい特徴に、サカズキは心当たりがあった。
海軍には、世間に知られることがない特別な手配書がある。
その名をホワイトリスト。
ホワイトリストにあげられる手配者は、悪党どもを指名手配するブラックリストとは異なり、たいがいが善良な一般人だ。
しかし、その善良な一般人には、とある特徴がある。
“政府にとって、価値のある人間であること”
例えば、生まれつき異能を持っていたり。
世界には食べるだけで異能を宿すことができる“悪魔の実”が存在するが、反対にそんなものを食さなくても異能を持つ人間もいるのだ。
カナヅチにもならず、海楼石にも反応しない。
けれども常人離れした能力を宿す人間が。
ホワイトリストの手配者は、E~Sにランク付けされており、海兵は捕らえた手配者のランクが高いほど、評価される。
サカズキには、ずっと昔から気になっている手配者がいた。
その名を“奇跡の歌い手 セイレーン”。
リストランクはS。
その女の唄う歌は、まさに奇跡。
ケガや病をたちまち癒やし、天候をも左右する。
近年では、記憶すらも操れると報告されている。
また、ただの言い伝えでしかないが、数ある歌の中で“滅びの歌”という歌は、聞くだけで相手の命を奪うとか…。
歌ひとつで女神にも兵器にもなりうる。
そんな能力。
海兵になり、ホワイトリストで彼女のことを知ってから、ずっと思っていた。
セイレーンこそ、自分が欲している兵器だ。
そう、全ての海賊を撲滅させるために…。
「追え…、なんとしても捕まえろ。」
『……はい!』
先ほどまでの意見を真逆にする上司の考えを部下は予期していたのか、一言も問い返すことなく電伝虫の通信は切れた。
「やはり生きていたのけ、セイレーン。」
ある時を境に、ぱったり消息を絶っていた女。
一部では死んだとまで言われていたが、サカズキはそう思わなかった。
何度も手に入れかけて、逃してきた海の妖精。
今度こそ、逃しはしない。
次に見つけたら最後、自分がこの手で捕まえる。
正義のために、彼女の能力がどうしても欲しい…。
じわりと海軍が動き始めたことを、この時のモモたちはまだ知らない。