第39章 欲しいもの
ペンギンが勝手にあわあわと焦る中、そんな胸中を知ってか知らずか、コハクが呆れたように呟いた。
「あんなところで、なにやってんだろうな。まあいいや、ローが降りてきたら、ジャンバールが目を覚ましたって伝えてよ。」
それだけ言うと、コハクは踵を返して船内に戻ろうとする。
(え…、それだけ?)
あまりの軽さに、ペンギンは肩すかしどころか、呆気にとられた。
「ちょ、ちょっと待てよ。」
「……?」
動揺して、ついコハクを呼び止めてしまった。
だってほら、もっとなにかあるはずだろう。
「母さんに手を出すな」とか、「父さんがいるのに」とか、いろいろさ。
でもそんなこと聞けず、またもや妙な間があく。
「…なんだよ、ペンギン。」
呼び止めたくせに、なにも話さないペンギンをコハクは訝しげに見上げる。
「いや…。ジャンバールはどんな様子かなって。」
「ああ、意識もハッキリしてるし、問題なさそうに見えるよ。でもやっぱり、ローに見てもらわないとな。」
あとで容態が急変したら大変だ。
「そ、そうッスね。船長が戻ったら、伝えておくッス。」
「うん、頼むよ。」
やはりコハクの様子からは、ペンギンが心配するような感情は見てとれない。
「なぁ、コハク…。」
「ん?」
「お前さ、本当は…--」
本当は、父親のことをどう思ってる…?
そう聞こうとしたけど、すんでのところで言葉を飲み込んだ。
それは、明らかに自分が踏み込んでいい領域じゃない。
人には誰しも、触れてはいけない部分があるのだ。
「なんだよ。」
「…いや、なんでもねぇ。」
いくら空気を読めない自分でも、そのルールを踏みにじるマネはできなかった。
「変なヤツだな。」
首を傾げるコハクの頭を、謝りながらクシャリと撫でた。
なぁ、お前。
本当は、船長のことをどう思ってる…?