第39章 欲しいもの
欲しいものがあった。
それは、今まで欲しいと思ったこともないもの。
初めてそれを見たのは、夜の薬草畑。
ローはそこで、貴重な薬でも、凄腕の薬剤師でもなく、輝く笑顔のモモに惹かれた。
欲しいものはモモの笑顔。
それなのに、モモを仲間にしてからというもの、彼女を笑顔にさせるどころか、悲しい顔をさせてばかり。
彼女のためなら、なんでもしてあげたいと思うのに。
例えば、観覧車に乗せてあげられない代わりに、シャボンが弾けるギリギリの高さまで連れてくることとか。
星が好きなモモは、いつもより少しだけ近くなった星空を見て黙り込む。
(気に入らなかったか…?)
それもそうか。
たかだか数百メートルくらいじゃ、星の瞬きは変わらない。
「ロー…。」
もう少し高いところまで飛んでみれば良かった。
そう考えていた矢先に、モモが口を開く。
「……ん。」
星空からモモに視線を戻すと、彼女は瞳を潤ませ、こちらを見つめる。
「すっごく綺麗…! わたし、幸せだわ。」
そう言って笑う彼女は、夜空に輝くどの星よりも眩しかった。
ああ、この笑顔だ。
ずっと欲しかったのは、この輝く笑顔。
今まで散々財宝を手に入れてきた。
それなのに、今日手に入れたこの笑顔こそが、これまでで1番の宝だと思った。
どうしてモモのことがこんなにも気になるのか。
どうして彼女の言葉ひとつ、笑顔をひとつでこんなにも振り回されてしまうのか。
ずっと傍に置きたい、独占したい。
その気持ちの正体は?
ずっと、気がつかないフリをしていたもの。
ああ、ちくしょう。
認めてやるよ…。
お前が好きだ、こんなにも。
女の扱い方なんて知らない。
二度と傷つけないなんて約束できない。
でも、それでも、必ず守ってみせるから。
海軍からも政府からも、お前が恐れる全てのものから。
だからいつか、お前の心に住む“誰か”じゃなくて、俺の方を向かせてみせる。
なァ、覚悟しとけよ…?
自覚してしまったら、もう止まることなどできないから。