第39章 欲しいもの
ふわりと浮遊感が身体を襲い、落ちることを恐れた身体はぶるりと震えた。
「や…ッ」
しかし、モモを抱えたローが落下などするはずもなく、すぐ近くにあったシャボンの上に着地した。
浮遊感は収まったけれど、数百メートルはある上空に怯えたモモは、ローの胸に顔を押しつけて、そのまま離すことができない。
「……オイ。」
「うう…。」
まるで子猫のように縮こまり震えるモモに、ローはため息をひとつ吐く。
「ハァ…、俺がお前を落とすわけねェだろ。いいから顔を上げろ。」
そう言われても、怖いものは怖い。
そんなモモの背を、ローはぎこちない仕草で撫でた。
「……。」
そうされるうち、震えは徐々に収まって、恐怖もじわじわと和らいでいく。
「顔を上げろ…。」
囁かれる声の近さが、モモを安心させた。
ローの言うとおり、彼が自分を落とすわけがないんだ。
ようやく顔を上げてみると、思ったとおり、ローの顔はすぐ傍にあった。
「どうだ、星は近いか?」
「え…?」
一瞬、なんのことかわからなかった。
しかしすぐに、さっき自分が言った「観覧車くらい高ければ、もっと星を近くで見られるか」ということを聞かれているのだと気づいた。
「もしかして…、そのために?」
あんなの、ただの戯れ言だ。
「…シャボンディパークには、連れて行ってやれなかったからな。」
あの時、モモが楽しそうに賑わう遊園地を羨ましそうに見ていたのを、ローが気づかないはずもなかった。
本当だったら連れて行ってやりたいところだが、それはもう難しい。
海軍の軍艦は今ごろ島に到着しているだろう。
だったらせめて、同じくらいの景色をモモに見せてやりたかった。
観覧車から見るのと、自分に抱かれて見るのとでは、全然違うかもしれないけど。