第39章 欲しいもの
「…どうしたの?」
月明かりくらいじゃ赤面した顔はわからないだろうけど、それでも見られたくなくて、手で顔を隠すローにモモは怪訝そうにした。
「…なんでもねェ。」
誰が爆弾投げてきたと思ってる!
こっちはこんなに衝撃を受けたのに、まったく無意識なバカ女を指の隙間から睨んだ。
「えっと…、あとは?」
他に知りたいことはないのかと尋ねられ、今度はローが考える番。
いっそのこと、「全部教えろ」と言ってはダメだろうか。
そんなこと言っては、きっと夜が明けてしまうだろうが、そんなこと少しも構わない。
とはいえ、そんなことを聞けるはずもなく…。
「お前が海賊になった理由はなんだ。」
これも気になっていたことのひとつ。
海賊の雰囲気とはほど遠い彼女が、その昔どうして海賊になったのか。
もしかしたらコハクの父親のことに触れることかもしれないが、話すか話さないかはモモ次第だ。
しかし、そんなローの想像とは異なり、モモはサラリと理由を口にした。
「成り行きよ。」
「成り行き…?」
そう、成り行きだ。
もともとモモは海賊になんてなるつもりはなかった。
「わたし、コハクくらい子供の頃から政府に追われていてね。ずっと逃げ暮らしていたの。」
ああ、こんな昔話をするのは、いつ以来だろう。
モモは幼少期から海賊になるまでの昔話をローに話して聞かせた。
両親が海賊に殺されたこと。
それ以来、言葉を話せなくなったこと。
海軍に捕まり、海賊に助けられたこと。
1度は海賊から逃げ出したけど、結局彼らの温かさに甘え、傍にいたいと願ったこと。
思い出の“海賊”は今ここにいるあなたのことだけど、きっとローには白ひげ海賊団だと伝わっているに違いない。
「…本当は海賊になるつもりなんかなかったのに、人生ってどうなるかわからないものね。」
6年前の出来事が、すぐ昨日のことのように思い出される。
あの日々はモモにとって、宝物だ。
そんな宝物を、目の前の彼から取り上げてしまった罪は一生消えないけれど…。
だから今度は、その罪を償うためにも、この船で役に立ちたい。
あなたの傍で。