第39章 欲しいもの
「ええっと…?」
いかなり気に入らないと言われたモモは、どうしていいか悩んだ様子だ。
まあ、それはそうだろう。
自分たちはまだ出会って数週間だ。
互いのことなど、そんなに早く分かり合えない。
彼女がローのことをよく知っているのは、観察力が鋭いせいなのだろう。
しかしローだって、自分で認めるのは嫌だが、モモのことをよく見ている。
それなのに自分だけが彼女をよく知らないのは、不公平のようにも思えてくる。
なんなんだ、このガキっぽい感情は…。
モモはしばらく困ったように眉を寄せると、おずおずと提案してきた。
「わたしのなにが知りたいの? 答えられることなら、いくらでも話すわ。」
「知りたいこと…。」
ふと、モモが天竜人の前で叫んだことを思い出す。
『わたしが愛する人は、生涯ただひとりだけよ!』
あの時の、突き刺すような痛みは まだ消えない。
「お前の好きな…--」
好きな人は誰か。
そう聞きたくなったけど、途中で言葉を止めた。
そんなのコハクの父親に決まっている。
それが誰かなんて、モモは言わないだろうし、今彼女の口から聞きたくなかった。
「お前の好きな…ものはなんだ。」
結局、誤魔化すためによくわからない質問をしてしまう。
「好きなもの…? うーん、そうねぇ。」
改めて聞かれるとなんだろう。
モモは答えを探そうと一生懸命考える。
その顎に手を当てて小首を傾げる仕草がまた可愛くて、「コイツわざとやってんじゃねェのか?」とすら思う。
「ああ。ソフトクリームが好きよ!」
「は…。ソフトクリーム?」
返ってきた答えは、どうでもいいくらい可愛いもの。
それくらい、いくらでも買ってやる。
「あと、そうね…。コハクとヒスイが好きっていうのは、当たり前のことよね。」
考えてみると、好きなものってそうそう答えられない。
それでも答えを待つローを見上げて、モモはポンと手を打った。
「もちろん、ローも好きよ!」
「……ッ!」
瞬間、ドクンと異常なほど心臓が跳ねた。
ついでに顔面が熱くなるのを感じる。
今が夜でなければ、ローはモモの前でとんだ醜態を晒していることだろう。
コイツ、やっぱりわざとやってやがる…!