第39章 欲しいもの
今回、ローにしては珍しく反省したことがある。
それはもちろん、モモの気持ちを無視して、強引に身体を手に入れようとしたこと。
あんなことがなければ、モモとギクシャクすることもなく、彼女は自分になんでも打ち明けられたはずだ。
モモを船に置いていったがために、ローの知らないところで彼女が危険な目に遭うなど、もう御免だ。
だから、ああいうことを彼女に強引に求めるのは止めよう。
そう決めたばかりなのに…。
ああ、もう…だから。
そういう顔で、上目遣いに見るんじゃねェよ。
ベポを怒らないで欲しいと訴えて詰め寄るモモ。
その距離の近さに、気を抜けば腰を引き寄せ、唇を奪ってしまいそうだ。
こちらを見つめ、愛らしく閉じた唇に知らずと目がいく。
「わ、わかった。別に隠してるわけじゃねェ。」
その肩を押し、距離を作ることで なんとか甘い誘惑を退ける。
モモは押しのけられたことに少々疑問を感じたようだが、ベポが怒られずにすむと知って安心したようだ。
それにしても…。
今回のフレバンスのことは仕方ないにしても、モモはローのことをよく知っている。
例えば食の好み。
ローはパンと梅干しが嫌いだ。
しかし、そんなことを彼女に教えたことなどないのに、モモが作る料理には、当然のようにそれらは入らない。
部屋の掃除にしたって、モモはまるでローがどこになにを置いているのか熟知しているかのように、次々と消耗品を補充していく。
それも欲しいと思ったタイミングで。
彼女はそうやってズカズカとローのテリトリーに足を踏み入れるのに、不思議と嫌な気持ちはしない。
しかし、反対にローはといえば、モモのことをなにも知らない。
それがなんだか…。
「気に入らねェな…。」
「え?」
突然投げかけられた言葉に、モモは首を傾げた。
もしかして、さっきのフレバンスの話かと勘違いしたのか、表情が曇る。
「ご、ごめんなさい。勝手に聞いて。」
しかし、ローはそんなことどうでもいいのだと否定する。
「違ェよ、そうじゃない。お前ばかりが俺のことを知ってんのが気に入らねェ。」
「は…?」
思ってもみない指摘に、モモは目を瞬かせた。