第39章 欲しいもの
(チッ…、余計なことを話したな。)
今はいない家族の話など、するつもりはなかったのに。
つい思い出話をしてしまったことを、後悔する。
故郷のことや、家族のことを聞かれても、ローは答えられない。
きっとモモを悲しい気持ちにさせるだけだから。
しかし、次にモモが零した言葉は、耳を疑うものだった。
「ああ、フレバンスは大きな街なんだものね。カンランシャくらい乗ったことがあって当然か。」
今はもう無き“白い町”は、白鉛により産業が発展し、とても裕福な街だったという。
当然、遊園地も観覧車もあるだろう。
しかし、何気なく言ってしまったそのことは、本来モモが知っているはずのない情報で…。
「お前…。俺がフレバンス出身だと、なぜ知っている。」
「--ッ!」
しまった!
ローの故郷の話を知っていたのは、6年前のわたしだ。
今のモモは、ローの故郷はもちろん、妹のラミや恩人のコラソンのことも、なにも知らないはずなのに。
観覧車の話に興奮して、口を滑らしちゃうなんてバカだ。
(ど、どうしよう…!)
焦って目をぐるぐる回すモモを見て、ローは自分が誰かを庇ってるとでも勘違いしたのか、さらに問いかけた。
「…ベポのヤツに聞いたのか?」
ジャンバール以外の仲間は、ローの過去を知っている。
口を滑らせそうなのは、ベポかペンギンのどちらかだが、仲の良さからいってベポの方だろう。
「そ…ッ、そうなの!」
天の助けか、ローが差し出した言い訳にモモはしがみついた。
ごめん、ベポ!
「チッ…、おしゃべりなクマめ。」
「あ、あの…。わたしが無理矢理聞いちゃって…。怒らないで?」
濡れ衣の上に怒られたのでは、ベポに合わせる顔がない。
詰め寄り、袖を掴んで見上げると、なぜかローは「う…ッ」と上半身を引いた。
「わ、わかった。別に隠してるわけじゃねェ。」
ローの態度を疑問に思いながらも、怒らないでいてくれることにホッとした。
とりあえず、うっかりミスは誤魔化せたようだ。