第39章 欲しいもの
「……。」
コハクから事の成り行きを聞いたモモは、しばし絶句する。
確かに…、嘘ではないのだけど。
でも海軍に追われているのは、別の理由だ。
しかしみんなは、ユグドラシルの知恵だと信じて納得してしまっている。
これはますます、言いにくい。
「すごいなぁ、モモ。だから おれの病気のことも、そんなに詳しかったんだ。モモみたいな子が薬剤師になってくれるなんて心強いよ!」
(う…。)
キラキラしたベポの眼差しが痛い。
ユグドラシルの知恵は本当のことだけど、今のは別の力なんだよ…なんて言ったら、みんなをさらに混乱させるだけかな。
「う、うん。任せておいて!」
結局、モモは真実を告げるのを諦め、今はその話で通すことにした。
(ま、いっか。そのうち言えば…。)
「よし、海軍の軍艦が来る前に船を出すぞ。シャチ、船底に浮き袋を付けろ。」
「アイアイサー!」
コーティングの重みで船が沈んでしまわないように、浮力の高い浮き袋を装着させる。
沖に出てこの浮き袋を外せば、たちまち深海へ潜水するという仕組みだ。
準備ができたなら、善は急げ。
「…出航だ。」
「「アイアイサー!」」
ローの指示に従って帆を張り、錨を上げて船を出した。
岸から離れて、じわじわと島が遠ざかっていく。
本当は数日滞在する予定だったのに、とんだアクシデントにより半日で離れることになるとは。
そう、たった半日のこと。
(不思議、朝まではローとあんなにギクシャクしてたのに…。)
ケンカと言うには少し違うけど、あの嫌な空気は、自分たちの間にはもうない。
トラブルを起こしてしまったことは申し訳ないけど、そのおかげでローとの距離が少しだけ縮まった気がするのだ。
(セイレーンのことは言えなかったけど、…良かったな。)
力のことは後々言えばいい。
モモは今回の冒険に満足していた。
でも、本当はこの時にちゃんと言えば良かったんだ。
6年前と今では、大きく違うことがある。
それは、海軍元帥がセンゴクからサカズキに代替わりしたこと。
サカズキは正義のためなら犠牲も厭わない冷酷な男。
“奇跡の歌い手 セイレーン”
ホワイトリストランク:S
モモは後に、今日のことを後悔することになる。