第39章 欲しいもの
「お前が…、コーティングをするだと?」
「ええ。」
突然妙なことを言い出したモモに向かって、怪訝そうに問い返すけど、彼女は力強く頷き返すだけだ。
意味がわからなくてコハクに視線を送ってみても、彼はなにも言わず、ただ黙ってモモを見つめている。
「えっと、モモ。コーティングできるの?」
混乱しているのはローだけじゃない。
ベポも同じように意味がわからず、質問した。
「……。」
ジャンバールと一緒にコーティング船を見たとき、感じたことがある。
あの時は、自分ごときがなんてことを考えるのだろうと否定したけど…。
『お前は、使える武器があるのに、それを使わず ただ黙ってそこで見てるのか』
さっき言われたローの言葉は、モモの胸に深く突き刺った。
その通りだったから。
できないって決めつけていたのはモモ自身。
強くなりたいって願うなら、まずは自分で自分のことを信じてあげなくちゃ。
そうすれば、たった今、ジャンバールの命を助ける手伝いができたように、自分の可能性が広がっていく。
それを気づかせてくれたのは、ローだった。
だから、今度はちゃんと、自分を信じてみんなの役に立ちたい。
「…できるわ。」
自分を信じて、自信をもって答えた。
「うーんと…。でもモモは、ここに来るまでコーティングのことすら知らなかったよね?」
確かに彼女は、ヤルキマン・マングローブの生態について、とても詳しく知っていたけど、それとコーティング技術はまったくの別物だ。
コーティングは見ただけで行えるような、一朝一夕の技術じゃない。
ヘタをすれば、深海にたどり着くまでに剥がれ落ちてしまう。
「そうね。わたしには船をコーティングする技術はないわ。」
モモはあっさりとそれを認めた。
「え…!? だったら…。」
さっきから、モモの言ってることが理解できなくて、ベポは目を白黒させてしまう。
「わたしには船をコーティングできない。でも、みんなにお願いすることはできるの。」
「え、みんな…?」
冷たい風が吹く。
その風に揺らされて、マングローブの葉がサワサワと音を立てた。