第39章 欲しいもの
ガチャリ。
後ろでドアが開く音に2人して振り向くと、船内からローが出てくるところだった。
「…なにしてんだ、こんなところで。」
偶然を装っているけど、本当は自分たちを心配して探していたんだってモモにはわかっていた。
「ちょっと風に当たってたんだよ。ローがオレたちをコキ使うから!」
あれ、さっきまでローのことを最高の師匠だとか言ってたのに。
本人を目の前にすると、悪態しかつけないコハクに笑った。
素直じゃないところばっかりが似て、どうしようもない父子だ。
空はすっかり日が暮れて、星が瞬いている。
ビュウッと吹いた風が、冷たい空気と共に悪い知らせを運んできた。
「キャプテン! 大変だよ、海軍の軍艦がこの島に近づいてきてるみたいだ!」
「「!!」」
街に様子を見に行っていたベポが持ち帰った知らせは、モモとコハクを大いに驚かせたけど、反対にローはたいした反応を見せず、落ち着いた表情だ。
なぜなら、わかっていたことだったから。
むしろ、予定より遅かったくらいだ。
まだ島のすぐそばに海軍本部があった2年前だったなら、今頃はとっくに海軍大将が到着してる。
しかし、海軍本部は“赤犬”サカズキの元帥就任後、新世界側に移設された。
おそらく、旧海軍本部に手練れの海兵がおらず、本拠地から船を出すしかなかったのだろう。
それで想像よりも時間が掛かったに違いない。
おかげでオペの時間は稼げたものの、今から職人を探し出し、船をコーティングするのは不可能だ。
ローひとりならともかく、仲間たちを危険に晒してしまう。
それくらいなら、いっそ…。
「ベポ、船を出せ。」
「え、でもキャプテン。まだコーティングが…。」
「新世界へ戻るのは、またしばらく後だ。」
こうなってしまった以上、不本意だが一度シャボンディ諸島を離れ、事態が落ち着いてから再び訪れるしかない。
最低でも、1ヶ月以上はかかるだろうが…。
「うん…、しょうがないよね。コーティングしながら船を守って大将と戦うわけにいかないし。」
そもそも、そんな危ない船をコーティングしてくれる職人など、見つかるはずがない。
諦めて船を出そうとした時、ただひとりだけ諦めていない人物が声を張り上げた。
「待って…! わたしがコーティングをするわ!」