第39章 欲しいもの
ローの“オペオペの実”と呼ばれる悪魔の実の能力が、いかに奇跡的なものであるか、今日改めて実感した。
彼が張ったサークルの中では、ありとあらゆる魔法が使える。
例えば、血を一滴も流さずに身体を細切れにしたり。
普通はリスクを掛けて開腹をし、状態を見たりするものだが、ローにそんな行程は必要なかった。
傷ついた臓器を丸々取り出し、直接治療ができる。
かつてローと一緒に海賊をしてた頃、オバケの森の一件でシャチとペンギンから毒素を抜くために、同じように細切れにしていることろを見たことがあったが、こうしてオペに参加しているのと傍観しているのでは訳が違う。
目の前にはドクドクと脈打つ心臓や、空気を取り込む肺。
まるで、人体模型のパズル人形にでもなってしまったかのようなジャンバールの姿に、モモは少々目眩を起こしそうになる。
しかし、そんなものを起こしている場合ではなく、モモもコハクも、ローの指示のもと怒涛の勢いで働いた。
そのかいあって、ジャンバールは一命を取り留め、無事オペは成功したのだ。
「ふぅ…。」
消毒液の匂いが充満するオペ室からデッキへ出ると、ヤルキマン・マングローブから発せられる清々しい空気が、張りつめた神経を解してくれる。
一気に現実に戻されると、さっきのオペが夢のように感じられた。
「母さん、大丈夫?」
オペ中、ずっと見張りをしていたヒスイを連れて、コハクが気遣う。
「大丈夫よ。あんなすごい手術、初めて間近で見たから…。」
血くらいはモモだって慣れたものだが、ローのオペはいろんな意味で衝撃だった。
「確かに。あのオペはオレには真似できないけど、でも、いろいろと勉強になったよ。」
能力者ではないコハクに、あのオペをすることはできない。
でも、初めて人体の中身を見て、仕組みや作りを知ることができた。
「ローは最高の師匠だと思うんだ。母さん、オレのことをローに任せてくれて、ありがとな。」
そう言って笑うコハクの表情は、やっぱりローの笑顔によく似ていた。