第39章 欲しいもの
「モモ、コハク、なにをボケッとしてやがる。お前らも手伝え。」
「えッ?」
完全に戦力外で蚊帳の外にいたつもりのモモは、ローの呼びかけにビクリと反応する。
「お前には医療の知識があるんだ。アシストくらいできるだろ。」
「でも、わたしはただの薬剤師よ。」
確か知識だけはあるけど、モモは医者じゃない。
ヘタに手を出しては邪魔になるだけだ。
「そんなの関係あるか。それにお前はただの薬剤師なんじゃねェ。お前がベポを診察した時のこと、忘れたとは言わせねェぞ。」
病に伏せるベポの症状を見て、病名も進行具合も全て把握し、完璧な治療をしてみせた。
あんなの、ただの薬剤師にできることじゃない。
「あ、あれは…。内科的なことだったし。それにわたし、本当に外科的なことは知識くらいしかないのよ。」
「それがどうした。」
「どうしたって…。」
技術が必要な外科治療に、素人が知ったかぶりで手を出すことが、どれほど危険なものなのかローが知らないはずがない。
それなのに…。
「お前は、使える武器があるのに、それを使わず ただ黙ってそこで見てるのか。」
「--!!」
使える武器…。
ずっとずっと、力が欲しかった。
誰かを守れるような力が。
でも、自分はいつだって無力で、守られてばかり。
モモの力は、歌と薬を作る腕だけ。
でも、本当にそうなのかな?
ローはモモに「武器がある」と言った。
力がないと決めつけていたのは、他の誰でもない、自分自身。
そうだ、限界を自分で決めてたら、それ以上成長なんかできやしない。
欲しいものは、力。
そしてもう、わたしはそれを持っている。
モモの瞳に、炎が灯る。
「…やるわ、わたし!」
ガラリと表情を変えて宣言したモモに、ローは満足そうに笑った。
「よし、来い。」
オペ室に向かうローの後へと、モモは1歩踏み出した。
その隣を、コハクが歩く。
「大丈夫だよ、母さん。ローの助手はオレがやるから、母さんはオレの助手をして。」
「…ありがとう。」
いつの間に、こんなに頼もしくなったんだろう。
息子の成長を嬉しく思いながら、モモはコハクとオペ室に入った。