第39章 欲しいもの
「あ…ッ、キャプテン! モモも…ッ。良かった、無事だったんだね!」
船に戻ると、デッキで見張りをしていたベポが2人の姿を発見して、大きく手を振ってくる。
「……ベポ!」
泣き出しそうな彼の表情に、すごく心配をかけてしまったんだ…と胸が苦しくなった。
ふわりとデッキに着地し、ローの腕から下ろされたモモは、ベポに駆け寄り、その勢いのまま飛びつく。
ギュウッと力いっぱい抱きしめると、フワフワの大きな手がモモを抱き返してくれた。
親友の抱擁は、いつもモモを安心させてくれる。
「チッ…。」
そんな微笑ましい光景なのに、ローはどうにも気に入らない。
空っぽになってしまった腕の虚無感に舌打ちを吐く。
幸い、その舌打ちはモモにもベポにも聞こえなかったけど。
「ベポ、ジャンバールは? 無事なの…?」
いけない、再会を喜んでいる場合じゃなかった。
まずは彼の安否確認がなにより大事なのに。
「うん、コハクが頑張って治療にあたってるんだ。医務室にいるから、早く行ってあげて!」
コハクは約束通り、ジャンバールの命を繋ぎ止めているようだ。
ローは足早に船内に入り、その後をモモも急いで追った。
ガチャリ…。
医務室のドアを開けると、中はまるで戦場のようだった。
「シャチッ、もっと強く押さえないと止血にならないだろ!」
「こ、こうか…?」
患部を強く圧迫すると、ジャンバールが「ううッ」と苦しげに呻く。
「わ、悪い、ジャンバール…!」
思わず力を緩めてしまう。
すると傷口から血がドロリと流れ出す。
「だから…ッ、キツくしないと止血にならないんだって! もういい、オレがやる! 」
ドンとシャチを押しのけ、清潔なガーゼを患部に当てて力いっぱい止血する。
「ぐお…ッ。」
ジャンバールが痛みに唸るけど、これは治療なんだから、心を鬼にしなくてはダメだ。
コハクの医者としての最初の試練は、苦しむ仲間の治療というものだった。
痛みを伴う治療に苦しむ仲間を見るのは辛いが、自分がやらねば誰がやるというのか。
コハクは見事、難関な試練をクリアしてみせた。