第39章 欲しいもの
「ハァ…。」
なんだか天竜人のことなど、もうどうでもよくなってきて、ローはため息ひとつ零した。
くだらない話をしているうちに、彼らに向けた怒りもすっかり鎮火している。
さっきまで、燃える怒りをどうしたらいいかわからなかったのに、モモはいつだってローの感情を手のひらで転がす。
(まさか、わざとやってんのか…?)
もしそうなら、たいした悪女だ。
人の手のひらで転がされるなんて、死んでも御免だったが、彼女になら、そうされても悪くないような気がする。
こうしてモモに振り回されるのは、どういうわけか、嫌いじゃない。
「誰か、誰か…、海軍本部に連絡するえー!」
沈没しかけた船から、命からがら脱出したチャルロスが喚き散らす声が聞こえる。
これは早々に逃げ出した方が良さそうだ。
「…行くか。」
「うん、ジャンバールが心配だもの。」
チャルロスたちをその場に残し、モモとローは港を離れた。
走って戻る時間も惜しかったため、ローはモモを抱いたまま、能力を使って瞬間移動しながら進む。
瞬きをする間に次々と変わっていく風景を、モモは不思議な気持ちで眺めていた。
みんなは当たり前に受け入れているけど、悪魔の能力は、人間離れしすぎている。
モモからしてみたら、ローはまるで魔法使い。
でも、世の中にはローのような魔法使いはたくさんいるのだ。
(それに比べたら、わたしの力なんて…。)
モモにできることは、ただ唄うこと。
もっと便利な悪魔の能力はたくさんあるのに、政府がどうして自分たちを狙うのか、よくわからなかった。
「チ…ッ、早いとこ船をコーティングしねェと、面倒なことになりそうだな。」
街を見下ろすローの視線を追えば、騒ぎを聞きつけた駐屯海兵たちが集まり、警戒を強めている。
これからコーティングをしてからの出航。
戦闘なくして進むのは、もう難しいかもしれない。
「……。」
わたし…。
ジャンバールと一緒に見たコーティング船。
あの時、思ったことがある。
わたしにも、できることがあるんじゃないかな。