第39章 欲しいもの
確かにモモの言うとおり、時は一刻を争う。
ジャンバールを治療し、コーティングを施工して新世界へ…。
それだけですら時間に余裕がないのに、ここで天竜人なんかに構っていられないのは、ローだってわかっている。
「いいのよ、わたしも言いたいことは言ったから。」
可哀想な人とか、なにも手に入らないとか、思ったことを全部言ってやった。
だから、仕返しのようなことをしてもらわなくても、モモは満足している。
「お前が良くても、俺が収まりつかねェんだよ。」
自分のものに傷をつけられて、冷静でいられるほど、ローはできた人間じゃない。
命を取るまでしないにしても、2度と外に出たくなくなるような思いはさせてやりたかった。
「ダメだったら…。ここをどこだと思ってるの?」
「あ…?」
シャボンディ諸島の30番グローブだ。
政府のお膝元という少々面倒くさい事情はあるものの、それくらいでローの怒りは鎮まることはない。
「シャボンディパークのすぐ近くなのよ?」
「…それがどうした。」
モモの言うシャボンディパークとは、すぐそこの遊園地のことだ。
パーク内には様々なアトラクションが存在しており、なにが楽しいのかローにはさっぱりわからないけど、ワーキャーとはしゃいだ叫び声がここまで聞こえてくる。
「ローったら、本当にわからないの? ここであなたが暴れたら、せっかくの遊園地が台無しになっちゃうじゃない。」
「……は?」
心底わからないという表情をする彼に、やれやれ…とため息を吐いた。
そうして街で見たよりもすぐ近くにあるシャボンディパークへ視線を移した。
ああ、楽しそう…。
きっとあそこにいる人は、今日この日のためにシャボンディ諸島に来て、最高の1日を過ごしているのだろう。
そんな1日を自分たちの騒ぎで台無しにしてしまったら、申し訳なくて顔を上げられなくなる。
「……。」
心の底から羨ましそうな視線を送るモモを見て、しばしローは絶句する。
いやいや、そんなの関係ねェだろ。
観光客のことなど知ったことか。
それなのに、本気で彼らの楽しみを邪魔したくないと願う彼女に、呆れかえった。
コイツ、どこまで…。
こんなことなら、遊園地くらい連れて行ってやれば良かったと、今日何度目かの後悔をした。