第39章 欲しいもの
「さて、アイツら…。どうしてやろうか。」
上空に留まりながら、チラリと転覆しかけた船から脱出するチャルロスたちを見下ろす。
モモの救出が最優先で、先ほどは彼らを無視したが、このまま逃がしてやるつもりはない。
「ダメよ、ロー。あの人たちのことは、もう放っておきましょう。」
本当は彼の人間に対する常識を説き伏せ、命の大切さを教えてやりたいが、自分にはそんな力はない。
この短時間で、天竜人の厄介さは身にしみて理解できた。
ここはヘタに手を出さず、早々に立ち去るべきだ。
そうでなければ、騒ぎを聞きつけた海軍の幹部が軍を率いて来てしまう。
そんなこと、ローだって百も承知だろうに、納得いかなさそうに顔をしかめられた。
ローの指先が、壊れ物を扱うように、そっと頬に…いや、唇の端に触れた。
「血が出てる。」
「え…。」
そういえば、すっかり忘れていたけれど、頬と腹を殴られたんだった。
もしかしたら、今、ひどい顔をしてる?
「これは…、なんでもないのよ。さっき転んだときにちょっと。」
殴られた、なんて言ったら、優しい彼は気にするだろう。
しかし、モモの必死な嘘など、ローにはお見通しで。
「嘘吐くんじゃねェよ。医者の俺が、そんなこともわからないわけねェだろ。」
…ごもっともです。
「アイツら…、ぶっ殺す。」
「えぇ!?」
まともな嘘も吐けなくて落ち込みかけたけど、物騒な発言をするローに、それどころじゃなくなる。
「このくらい平気よ! 天竜人に手を出したら、海軍大将が来ちゃうんでしょ? そんなことしちゃダメ。」
どのみちすでに手を出してる。
モモが言うように、海軍大将が軍艦を率いて訪れるのは時間の問題だろう。
そうなれば、無事に新世界にたどり着く可能性が一気に低くなる。
自分たちの船はまだ、コーティングすら済ませていないのに。